低体温症で意識のない子牛を、お風呂で蘇生させる方法。

こんにちは。
但馬牛繁殖農家のお肉屋さん、田中畜産の田中一馬です。

先日、子牛と一緒にお風呂に入りました。

か、かわえええーーーーーー!!!

ご存知の方も多いと思いますが、牛を風呂に入れるのは好きだからではありません。(好きだけど)

低体温症の子牛を蘇生させるために牛を風呂に入れるんです。

初めてのお風呂

思い起こせば13年前の2004年。
初めて牛を風呂に入れたのは牛飼いを始めて3年目の冬でした。

当時借りていた牛舎

牛飼い素人の僕は親牛を繋いだままでお産をさせてしまい、親に舐められることもない子牛は真冬に羊水でびしょ濡れ。
生まれたばかりの子牛は体脂肪が非常に少なく、体温はどんどんと外気温に奪われていきます。
見つけたときにはコンクリートの上で体は冷たく、目は見開き、意識は殆どない状態でした。

糞と羊水まみれの子牛を軽トラの助手席に乗せ、家につれて帰る道中「ごめんなさい、ごめんなさい」と半分泣きながら風呂に入れたことを思い出します。

当時の家の風呂は隙間風と粉雪がビュービュー入るもの。
しかもお湯が出ず、追い焚きのみ。
風呂に水を入れ、お湯が沸くまでの数十分間、ドロドロの牛を部屋のストーブの前で必死に拭いたのですが、元気になる様子は全くありません。

しかし、お風呂に入れて1時間も経たないうちに、意識が朦朧としていた子牛がバタバタと動くようになっていきます。。。

「お風呂の効果ってすごい!!」
そう思ったことは今でも忘れられない。

そこから13年。
我が家では毎年子牛をお風呂に入れています。
お風呂が繋いでくれた命は計り知れない。

誤解がないようにして欲しいのですが、牛飼いにとって「風呂に入れて子牛を蘇生させました!」なんてのは美談でもなんでもなく、むしろ恥です。
親牛を繋いだまま産ませること自体が「何してんだ。。」って話なんです。

でも、もしそんなケースに出会ったしまった時には、間違いなくお風呂蘇生法は有効。
誰もがすぐに使えるように、今日は僕の牛風呂体験記を書きますね。

低体温症になった牛の入浴法

生まれてすぐ、低体温症になった子牛には即お風呂。
もうこれは間違いない。
市販のヒーターなどもありますが、人間だって寒い時は暖房より、服より、布団より、お風呂ですよね。
濡れた体ならなおさらです。

@登府屋旅館 温泉サイコーっす。

特に黒毛和種はホルスタイン種などに比べ体が小さく、体積の割に体表面積比が大きいことによって低体温症を起こしやすい。
普通に産んでも低体温症になる危険は常にあります。
迅速な対応で救える子牛の命はたくさんある。
その一つがお風呂です。

お風呂に入れる2つのポイント

低体温症で意識も飛んでいるようなぎりぎりの状態の子牛を風呂に入れるとき、ポイントは2つあります。

①ぬるめのお湯でじっくりと
「少しでも早く体温を上げたい!!」その気持ちは分かるのですが、弱りきった子牛に40℃以上の熱めのお風呂は負担が大きいといわれています。
僕は「少しぬるいかな?」というくらい、38度くらいのお湯に2時間ほど子牛を入れます。
38度のお湯であっても体温が38度以上にならないかといえばそんなことはありません。
あせらずじっくり。子牛の体温が戻るのに最低でも1時間は見てほしい。
2時間以上お風呂に入れることで子牛の体温は39度以上に上昇します。
お風呂からあげる目安は新生児の場合39.5℃です。(平熱よりやや高め)

②全身浴より半身浴
比較的意識がはっきりしている子はいいのですが、意識不明の子は心臓が殆ど動いていません。
当然体温は30度を切っています。
誤解されがちですが、お湯の温度で子牛の体温を上げるわけではありません。
あくまでも体温を上げるのは子牛自身。
温かい風呂の中で心臓を動かし血液を循環させる過程で体温は上がっていきます。
だからお風呂の深さは子牛の背中が出る程度、半身浴で十分です。
牛の心臓は前足の付け根(胸)にあるので、半身浴でも心臓や大きな血管は温まります。
逆に深い風呂に入れてしまうと衰弱した子牛には水圧による負担が大きく、ギリギリの子は死んでしまうかもしれない。
また、牛が溺れないように支え続ける人も大変です。
だって2時間近く入るんだもの。

ぬるめで、2時間、半身浴。

はい、これだけです。
たったこれだけのことで、意識が飛んで瞳孔が開きかかった子牛であっても、戻ってきてくれます。

ただ、これは生まれて間もない子牛だけ。
再度低体温になった子牛を再び風呂に入れても効果はあまりありません。
初回だけの一発勝負なので「また風呂があるさ」なんてことは思わないで下さいね。

あとは風呂にいれている間に獣医さんを呼んで、体温がしっかりと上がったら風呂から上げて、しっかり拭いてドライヤーで乾燥させます。

体温を測ることの大切さ

お風呂蘇生法は概ね上記のやり方でいけますが、できることならこまめに体温を測ってほしい。
体温計がすぐ見つからないときは、子牛の口の中に手を入れると何となくの体温は分かります。
冷たければ35度を切っているので危険な状態。

中には風呂に入れて30分も経つとバタバタと動き出す子牛もいます。
でも口に指入れると冷たい。
そんな時は体温が上がっていないので出すべきじゃありません。
意識が朦朧として暴れているだけだからです。
判断の目安はあくまでも体温。

お風呂での体温測定にはこのデジタル温度計(ブログ「牛の体温計には「デジタル温度計」がオススメです」)がお勧めです。
一般の体温計では35度以下は測れないので、子牛の低体温症時の体温を知ることはできません。
でもこれは温度計なので測れます。
測れることで見えてくるものもある。

先日の子牛を風呂に入れた際、温度計のモニターを見た僕は驚きました。
体温26.0℃。。。。
子牛の平熱は39.0℃です。
生きているのが不思議な体温でした。
でもきっと測れていないだけで、こんな子牛は多いと思う。

温度センサーを直腸に入れたまま、すぐに風呂に入れます。
5分経っても体温は26℃から全く変化しない。
心臓も殆ど動いていません。

10分経ったころから26.2℃、26.3℃と少しずつお湯の温度で体温が上がりだしました。
いけそうだ。。。
このまま上がって欲しい。
センサーを見ながら26.8℃、26.9℃、27.0℃と体温の上がっていく様子を見ていきます。
まだこの時点では当然牛は動きもしないし、心臓も殆ど動いていない。

そして27.1℃になったその時、、、、

27.0℃、26.9℃、26.8℃、26.7℃と急速に体温は下がっていきました。
「なんでや!!」
「やばい!死んでしまう!!」

風呂だけで間に合わないと判断し、必死で胸のあたりを擦るように強く揺すります。
とにかく心臓を動かすこと。
このままでは体温が上がる前に心臓が止まってしまう。。。

時間にして5分くらい。
入浴しながらの心臓マッサージをひたすら繰り返していくと、、、26.6、26.8、27.0、27.2、27.4とすごいスピードで下がっていた体温が上がっていきます!!
心臓の鼓動もすこしづつ感じられるようになってきて、32℃を超えたあたりから早く力強い鼓動を感じられるようになってきました。
そして、入浴後3時間で39.5℃。
お風呂と子牛の力で、平熱まで戻すことができました。

おそらく体温をリアルタイムで見れてなかったら、この子牛を助けられてなかったと思う。
体温を見ていたことで命が戻すことができた。

結局この子は4時間風呂に入れ、産室に戻って行きました。
風呂からあげる頃には指を吸うようになっていた。
もう大丈夫。

奇しくも息子の誕生日に生まれてきたこの子は、長男によって「ふわふわちゃん」と名づけられました。

この投稿が風呂から上げて30分後。
子牛が自分で立って乳を飲みに行っています。
ここまでくれば一安心です。

本来であれば子牛を蘇生しなければいけない状態自体が駄目なことです。
今回のケースも100%僕の過失から招いたこと。

反省点はたくさんあるけど生きていることが正解なんだと思う。

だから書きました。
このブログが1頭でも多くの子牛の命を救ってくれればと願っています。


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田中 一馬
1978年生まれ。兵庫県三田市出身。田中畜産代表。小さい頃から動物が大好きで北海道酪農学園大学へ入学。在学中に畜産の魅力に目覚め、大学院を休学して2年間畜産農家で住み込みの研修に入る。2002年に独立して田中畜産を設立。但馬牛の子牛生産をメインに、牛の蹄を切る削蹄師として全国の牛の蹄をサポートをしている。2008年に精肉部門を立ち上げ、自家産の但馬牛で放牧牛肉の生産と販売に挑戦中。