なぜ牛肉販売をするのか。

田中畜産は但馬牛の繁殖牧場です。
但馬牛の親牛を50頭飼育しており、生まれた子牛を肥育農家さんに販売するのが仕事です。

「子牛を売る繁殖農家がなぜ畑違いのお肉の販売をするのか?」
「そんなことせずに牛飼いに専念したほうが儲かる。全て中途半端になる。」
よく言われます。

実際売上の80%が子牛販売で、牛肉販売は売上の数%にしかなりません。(あとは削蹄。)
また現在、子牛価格の歴史的な高騰によって親牛の価格も上がっており、親牛を放牧して牛肉として販売するよりは妊娠させて生体で販売する方が手間もかからず利益は上がります。

それでも不思議と牛肉販売をやめようとは思いません。
思ったこともありません。

最初はエンドファイト中毒によって親牛を次々に廃用してしまったことが牛肉販売のきっかけでした。
害があるかもしれない輸入飼料を与えなくては成り立たない畜産の現状に疑問を感じ、「放牧牛肉を通して日本の食料基盤を支える!」という想いを持ってスタートさせました。

今もまだその気持ちは変わらず持っています。
しかしお肉販売を始めて8年が経ち、お客様との関わりの中で、また自分が牛を飼っていく中で、僕の中の大切にしたいことも変化してきました。
具体的になってきました。

なぜ牛肉販売をするのか?
それはやっぱり「やりたいから」なんですが、牛肉販売を通して何を届けたいのか。
そこがずっと漠然としたままだった気がしています。

先日、商業界というビジネス誌を読んでいると「差別化ではなく独自化」という記事がありました。
・差別化と独自化は視点が全く違う。
・差別化とは同業他社・競合相手を見ている言葉で、その視点は自分に向いている。
・独自化はお客様のために何ができるかを考え、その結果作られるもの。
そんなことが書かれていて、読んだときにまさにその通りだと腑に落ちました。

放牧、グラスフェッド、但馬牛、長期肥育、経産牛。。。。。
「黒毛和種の中でも特別な但馬牛を、放牧で仕上げた牛肉の生産をする。」
それは日本でうちだけが行っていることで、肩書きだけで言えば圧倒的な差別化。
未だ同じことをしている人はいません。

しかし、それは本当に求められているものなのだろうか?
その肩書き、スペックに魅力を感じてお肉を買ってくださる方ももちろんおられます。
しかし、たくさんのお客様からお手紙やメール、メッセージ等を頂く中で、差別化の必要性を年々感じなくなってきました。

他のお肉と比較し優位性を競うこと自体、意味を感じなくなってきたのです。

例えば、放牧敬産牛肉を購入いただいたお客様から
『頂いた「なみふくよし」をハンバーグに、「きそひめつる4」で主人の大好きなそぼろお弁当を作らせて頂きました。』
と、写真付きでお便りをいただきました(すっごい思いの込められたお手紙でした!)
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また、違うお客様は放牧牛肉を使ったお肉の調理法や感想を毎回ブログ【(その1)(その2)(その3)(その4)(その5)】にアップしてくださっています。

ひとつひとつ書くとキリがないのですが、今まで500件以上のお返事をいただき、それぞれが僕の牛肉販売に対する考え方を変えていってくれました。

当たり前のことですが、お肉についている《肩書き》のためにお肉を買ってくださるわけではありません。
お肉を買うことで《得たいもの》がそれぞれのお客様にあるのです。

それに気づくまで本当に時間がかかりました。
そして、改めてなぜ牛肉販売をするのか?牛肉販売を通して何を提供していきたいのか?考えました。

よく、イベントを通してお肉に興味のある人を集め、いろんなシェフに食べ方を考えていただき、みんなでその牛を食べるというものがありますよね。
消費者、生産者、肉屋、シェフ、メディアが一同に集まり牛肉の可能性を探る。
すごく素敵な取り組みだと思います。
でも、なぜか僕は一度もやりたいと思わなかったんです。
こんな素敵な取り組みなのになんでだろうとちょっと心に引っかかっていました。
その答えは意外なとこにありました。

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実は僕は家で食べるご飯が一番好きなんです。
特に夕食。
自分の落ち着く空間で、仕事が終わって一番気が休まる時間、子供たちも帰ってきて家族一緒にいられる時間が。

だから外食も飲み会も基本的には嫌いで、イベントも好きじゃない。

とにかく家で、妻の作ったご飯を家族みんなで食べる時間が好き。
僕にとって一日で一番幸せな時間かも知れない。
そのくらい家ご飯ってのは凄い。

この楽しい夕食や団欒の場を我が家の牛を通して提供したい。

それが僕が牛肉を生産する理由です。

今日の晩御飯はグラタンでした。
昨日はカレーライスの残りとセコガニ。
楽しい食卓は別に牛肉でなくったっていいんです。
なんでもいいんです。
たくさんある中で選べるのがまた楽しいんです。
もちろん牛肉だっていろいろ選べる。
そこに僕が放牧だとか但馬牛だとか機能的成分だとかスペックで他の牛肉と差別化し、自分のところにお客様を囲い込もうとすること自体ナンセンス。

このたくさん選べる毎日の楽しい夕食の中で、団欒の場をつくるために、僕は僕の牛を通して何を届けることが出来るだろうか?
それを突き詰めることが独自化なのだと思いました。

今年のお肉は「きょうふく」という牛です。
あえて頭数を大幅に減らして1頭のみにしました。
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今一度、「なぜお肉を販売するのか。お肉販売を通して何を実現したいのか」を妻と話しています。
そして、楽しい夕食や団欒を提供するために①美味しさ②関係性③スペックの3つの柱を軸に出来ることを一つ一つ構築していこうと思っています。

「きょうふく」は11月26日が屠畜日。
お肉の販売は12月20日頃の予定です。
最新情報はFBで発信していきますのでこちらもチェックしていてくださいね!!

※3年前のブログにお肉の差別化について書いていました。
スペックではなく「いいね」を集める商売。
後半の講演原稿は今読んでも結構しっくりきます。こちらもぜひご一読ください!!
→【放牧牛肉についての取り組み お肉の差別化について(近畿マッチングフォーラム)


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田中 一馬
1978年生まれ。兵庫県三田市出身。田中畜産代表。小さい頃から動物が大好きで北海道酪農学園大学へ入学。在学中に畜産の魅力に目覚め、大学院を休学して2年間畜産農家で住み込みの研修に入る。2002年に独立して田中畜産を設立。但馬牛の子牛生産をメインに、牛の蹄を切る削蹄師として全国の牛の蹄をサポートをしている。2008年に精肉部門を立ち上げ、自家産の但馬牛で放牧牛肉の生産と販売に挑戦中。

コメント

  1. りん より:

    お疲れ様です。
    いいんじゃないですか?
    誰に何を言われても一生懸命繁殖して、負担にならないように肉を売る。

    家族がいる以上父親としての役割は果たさなくてはいけないので赤字だらけだと困りますが、できる範囲でやりたいことに挑戦する、農業の魅力の一つだと思います

    • 田中 一馬 tanatiku より:

      りんさん
      ありがとうございます!
      負担でなく、楽しみ・生きがいに変換できるようにみんなで頑張っていきます!!