放牧肉用牛シンポジウム〜放牧技術の新たな展開とそのポテンシャルを探る〜

2/27、東京都文京区で行われた『放牧肉用牛シンポジウム』に登壇させていただきました。

座長の萬田先生、種子協会野口会長(中央)と講演者6名

今回は消費者の方々に向けた講演なので、放牧牛肉の現状と問題点を中心に、、、って、

全員畜産関係者やん!!(着いて気がついた)

マジかよ。。。

正直、関係機関に向けての講演はもうやらないつもりでいました。
毎度毎度同じ顔ぶれ。
ひとりひとりは好きだけど、仲間内で完結してる気がして意義を感じれずにいた。

「学者や研究者と話していても何も実らない。」
「実際僕の方がやってるし。。。」
そんなことを思ってました。
(すいません。僕、性格悪いんす。。。)

でも、今まで偏った視点で僕は見てたんだなと、今回のシンポジウムで反省した。

放牧肉用牛シンポジウム

まずは登壇者のプロフィールと内容を。

①トップバッターは鹿児島大学の後藤貴文教授。国内資源での牛肉を生産するためのシステムを開発研究をされています。代謝インプリンティングという技術で「幼少期に大きくなりやすい体質」を作り、草だけで牛肉にするQビーフの開発者でもある。

②大分県で茶園を営みながら和牛繁殖をされている永松英治さん。スライドに決算書載せるのも半端ないけど、子牛生産にかかる総費用が20万円代ってさらに半端ない。九州は積雪量が少なく1年を通して放牧ができるのが魅力。環境が違うので真似はできないけれど、見直さなきゃいけない部分だと刺激を受けました。

③北里大学フィールドサイエンスセンター(八雲牧場)の小笠原英毅助教。350haの広大な面積を利用し、化学肥料と農薬に一切依存しない「北里八雲牛」の生産販売をしています。牛の品種は日本短角種とフランスのサレー種との交雑種。草だけで枝肉重量520kgって、僕の生産する放牧敬産牛肉の2.5倍っす。。。品種の違いってマジ大きい。

④肉おじさんこと株式会社門崎代表取締役の千葉祐士社長。門崎肉用牛の牛肉販売、卸・食品加工、都内11店舗、岩手3店舗の運営、飲食店運営のサポート事業、牛肉の啓蒙活動を行われています。僕の尊敬する経営者でもあり肉の変態でもある。生産者は思想家であり哲学者。その考え方が間違っているのではなくマーケットと共有できていない。思想だけじゃダメ。全てが腑に落ちる言葉だった。

⑤医師であり日本機能性医学研究所所長の斎藤糧三先生。お医者さんなのに麻布十番に牧草牛専門店「SaitoFaram」をオープンし、食から健康へのアプローチもされている。肉食ダイエット(ケトジェニックダイエット)の提唱者。

ラスト6人目は僕。10年間の放牧牛肉生産で僕が失敗した事や今大切に思う事、放牧という呪縛、多様性はおまけ、肉のプロとしてフィルターを外す、お客さんと関わる、僕のお肉も売れなくなる。そんな話をさせていただきました。

研究と普及とのズレ

冒頭でも書きましたが、僕はこういった関係者の集まりで話すことにずっと違和感を感じていました。
普及を目的にした研究に疑問があったから。

・放牧にはたくさんの意義がある。

・だから普及させる必要がある。


・そのために農家が取り組みやすいモデルを研究開発しないといけない。

でも既に農家として取り組んでいる僕から見れば、この流れは中途半端にしか映らなかった。農家が単体で取り組めることを研究してどうなるの?普及しないのは単に魅力がないからだよって。
みんな放牧という呪縛から出れてないって思っていた。

放牧という呪縛、ってひどいな。。。

放牧推進には2つの大義名分がある。
一つ目が放牧が持つ多面性
放牧をすることで耕作放棄地の解消につながったり、輸入飼料依存から国産資源の活用であったり、低コストで牛が飼えたり、糞尿処理の負担が減ったり、、、、、そんな感じ。
二つ目が収益性の向上
牛肉や牛乳といった生産物を放牧という付加価値をつけて今までよりも高く販売しようというもの。

しかし消費者にとって多面性は関係ない。
ましてや誰もが取り組める高収益モデルなんてそれだけで胡散臭い。

もしそんなモデルを作ったとしても、普及するほどに価格は下がっていく。需要と供給と競争がある市場では当然のこと。価格だけで参入した農家は価格が下がると辞めてしまう。
『農家が魅力を感じるためには高く売れる仕組みを作ること。そうなれば普及する』
この話から何年も進まない現実も僕は見てきた。

魅力やモデルなんて作ってもらうものじゃないし。
そうやって僕は醒めて見てた。

繋がりと順番の大切さ

しかし、今回のシンポジウムで色々と話をする中で僕の中でようやく腑に落ちた。
順番が違ったんだ。

千葉社長もこんなコメントをしてくれていた。

今回のシンポジウムの面白さは…研究者だけでなく…生産者や流通者や小売や飲食店経営をしている様々な立場からの発表があることだと思いますね。
研究→実践→成果

マーケティング→研究→実践→成果
になるとまた違った結果や市場への受け入れられ方が構築できると思いました。帰り道タクシーの中で萬田先生と諸々お話ししましたが…やはり、そのことを意識されており全体を俯瞰して研究されることを大切にしている視座に感銘を受けました。引き続き深い交流頂けるようによろしくお願いします。

大事なのは思想であり買ってくれるお客さん。そのために技術があり、プロの力が必要になる。

僕も決して人のことを偉そうには言えない。
今は売れていても、このやり方だけでは発展はないと常に感じていた。

マーケティングを「思想→お客様」と考えた時、千葉さんの言われる『思想→お客様→実践→研究→実践→成果』は本質だなと思った。
そうなった時に生産者が圧倒的に弱いのは『研究』という分野。

懇親会で小笠原さんや斉藤先生と話しながら、僕は興奮がとまらなかった。
その道のプロはやっぱすげえ。

順番が違うと形は全然違うものになるし、結果も出ない。
今までチグハグ感にモヤモヤがありましたが、今回初めてこの会の意義に気がついた僕でした。

組織学的な面からの餌と肉の変化や、牛肉アレルギーについての考察、ニュージーランドの牧草牛のポテンシャルの高さにも驚いた。
特に牛肉アレルギーについては個人の事業を超えて取り組んでいきたいと思っている。

僕よりも圧倒的なプロがたくさんいる。

集まることで初めて見えてきた形。
話せば話すほどみんなひたすら濃い。マジ変な人ばかり。
大学教授、官僚、医師、肉屋、牛飼い、、、、でもみんなが肉や牛や事業に向き合ってる同士みたいな感じ。
価値観や考え方はバラバラだけどね笑
バラバラが居心地いいって面白いな。

福島や岩手や栃木や東京都内からも僕に会いに来てくれた方もいて、それもめちゃくちゃ嬉しかった。
一人でもやるけど一人ではやらない。
もっともっと頑張ります。


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田中 一馬
1978年生まれ。兵庫県三田市出身。田中畜産代表。小さい頃から動物が大好きで北海道酪農学園大学へ入学。在学中に畜産の魅力に目覚め、大学院を休学して2年間畜産農家で住み込みの研修に入る。2002年に独立して田中畜産を設立。但馬牛の子牛生産をメインに、牛の蹄を切る削蹄師として全国の牛の蹄をサポートをしている。2008年に精肉部門を立ち上げ、自家産の但馬牛で放牧牛肉の生産と販売に挑戦中。