国産グラスフェッドビーフは今後日本で普及していくのか?

牧草主体で飼育した牛肉を『グラスフェッドビーフ』と言う。その殆どは海外からの輸入品だ。
しかし近年赤身肉や熟成肉ブームに合わせるように、国内でもグラスフェッドビーフの生産が増えてきた。

東洋経済にもこんな記事が。。。

って、ステマみたいでゴメンなさい。
我が家の放牧敬産牛肉のことを株式会社門崎の千葉社長が書いてくださいました。

実は黒毛和種(但馬牛)でグラスフェッドに取り組んでいる牧場は大学や研究機関を除けば日本では我が家だけ。そのため僕のところにはグラスフェッドビーフについての問い合わせも多い。先日も某テレビ局から電話があった。こんな風にグラスフェッドビーフの生産農家は驚くほど少ない。

空前のグラスフェッドブームに合わせ、今後国産のグラスフェッドはどう推移していくのか。11年取り組んできた経験から僕の思うことを書こうと思う。

国産グラスフェッドビーフは普及するのか?

健康志向による赤身肉人気や熟成肉ブーム。これによって国産グラスフェッドビーフの需要は確かに増えてきている。しかし、需要があるから普及するかといえばまた別の話だ。

普及とは『広く行き渡る』ことをいう。小さな農家が数軒取り組んだところで普及とは言えない。広く行き渡るには多くの農家が取り組める土台、そして魅力がなくてはいけない。

逆に言えば今普及していないのは、ほとんどの農家にとってグラスフェッドビーフは生産する土台も取り組む魅力もないということなのだ。

僕は国産のグラスフェッドビーフは今後も普及することはないと思っている。

国産グラスフェッドビーフの5つの課題

国内でグラスフェッドビーフを普及させるには多くの課題がある。
大まかに5つの項目に分けてみた。

①土地
牛を放牧するには1頭あたり1ha/年必要だ。平均的な和牛肥育農家の飼養頭数は200頭(繁殖農家だと50頭)。それだけの土地を各農場が全国で確保するのは現実的な話ではない。

万場放牧場。ここで8haの面積。

②味と品種
グラスフェッドビーフといえばゴムのような肉をイメージされる方も多い。一昔前の輸入牛肉はそんな感じだった。だからこそ大麦牛など、穀物で仕上げてくる牛肉が今の輸入牛肉の主流になってる。しかし実はグラスフェッドと言ってもその味は千差万別。その大きな要因を占めるのが品種。つまり遺伝子の力だ。

グラスフェッドといえば赤身のお肉。でも実は黒毛和種の場合にはサシも入る。肉専用種として日本で最も飼育されている黒毛和種は日本人の嗜好にあった牛肉だと思う。

但馬牛「元気」のグラスフェッド(56ヶ月齢・リブロース)

一方でブラウンスイス種のグラスフェッドはこんな感じ。

ブラウンスイス種のグラスフェッド(7歳・サーロイン)

比べると全く違いますよね。誤解しないで欲しいのだけど、サシが入ることが大切なのではない。大切なのは同じような飼い方をしていても品種によって肉質は大きく変わるということだ。
黒毛和種(但馬牛)でのグラスフェッドは実に美味しい。実際に和牛を扱う肉のプロからも驚きの声を頂いてきた。一方で乳用種のグラスフェッドビーフは非常に好みの分かれる牛肉だと感じている。
以前ニュージランド産のグラスフェッドビーフを食べたが、国産乳用種のグラスフェッドに比べるとクセがなく食べやすかった。輸入や国産、グラスフェッドという飼い方も大切なことかもしれない。しかし食べ物である以上は味を蔑ろにはできない。もちろん遺伝的な要因だけではなく、食べさせる草の種類でも肉の味は変わってくる。

しかしここにも大きな問題がある。年間何万頭も生産されるグレインフェッド(穀物飼育)では餌と味の関係が解明されつつあるが、年間数十頭と生産頭数の少ないグラスフェッドはデータが無さすぎて味の要因までつかめないのが現状なのだ。
(ブログ「グラスフェッドとグレインフェッドの肉質の違いって分かりますか?」

「グラスフェッドはどんな肉になるかわからない。」
これは生産者からすると取り組むのに大きなリスクである。

④市場性
グラスフェッドビーフは栄養価の低い草をメインに育てるため肉の重量が少ない。さらにサシが少なく水分の多い肉となるため枝肉市場での評価は低く、販売単価は安くなってしまう。そのため利益を上げるため販路を自分で開拓していかなくてはならない。
確かに放牧をすることで餌代などのコストは削減される。しかしそれを含めても普通に牛を飼って市場で販売する方がリスクも少なく利益率も高い。
普及を目指すなら流通から変えていかなくてはいけない。

左から2頭目が放牧敬産牛肉(てるひさ)の枝肉。小さいよね。

⑤商品化の難しさ
グラスフェッドは肉量が取れる飼い方ではない。そのため肉の塊が大きいロースやモモは使いやすいが、筋の多いバラはウデなどは焼肉用など単価の高い商品が取りにくい。問題は枝肉の薄さ。グラスフェッドビーフを捌いていくと単価の安い煮込み系ばかりが出てしまうことに気がつく。肉量が取れない上に低単価の商品が多くなる。グラスフェッドブームで需要があると言っても、その需要のほとんどがロースやモモなのが現実だ。
脂が多すぎると言われるA5-12。この枝肉が高値で取引されるのはロース断面のサシの多さを求められているからではない。赤身の塊であるモモやスネでもサシが入り、高価格帯の商品が牛1頭からたくさん取れると言う事で価格が高いのだ。

ちなみに我が家では40部位ほどに分割し、各部位ごとに食べ方を提案しながら販売している。牛飼いをしながら肉のカットから包装や発送、お客様とのやりとりまで全て自分たちで行う。そこまでやらないと採算は取れない。面白いんだけどね。好きだからやれるのであって、普及させるにしては手間がかかりすぎる。

牛肉は分ければ分けるほどいろんな顔を見せてくれます。

以上のことからも
・放牧だとコストがかからない為経営として成り立つ
・赤身需要でいくらでも売れる
・国内で今後グラスフェッドが普及する
これらの意見が見当違いだと言うことがわかると思う。

グラスフェッドビーフの需要と供給にはズレがある

グラスフェッドは非常に高コストかつ非効率な生産方式です。成立させるにはそれだけの時間と手間がかかる。「放牧を利用することで安価で美味しく健康的な畜産物を消費者に届ける。」そんな言葉に僕は矛盾しか感じない。まして普及すると単価は下がる。それについていける畜産農家は皆無なんじゃないのかなと思っている。

現在たくさんの飲食店の方からご注文や問い合わせをいただきます。ただ、昔からの付き合いのあるレストラン1店舗を除き、お肉の卸売は行っていません。
毎年楽しみにしてくれている一般のお客さんに支えられて我が家は販売が出来ている。だから今はその方々を大切にしたい。これは我が家の事情。いろんなケースがあるとは思う。

僕は卸売がダメだとは全く思いません。ただ問合せを頂くほとんどがロース、ヘレ、ランイチといった使いやすい部位ばかり。そればかり卸してしまうと一般のお客さんには切り落とし、ミンチ、煮込み系にばかりになってしまう。それでは本末転倒だと思う。

僕が今取引しているレストランのオーナシェフは、8年前、肉が全く売れなかった時期に友人から紹介してもらった方。正直に現状を話したところ「ロースヘレなど売りやすいところはあなたのお肉を楽しみにしているお客さんに販売しなさい。僕は売りにく部位でいいから欲しい。使いにくいとか、食べ方を考えるのは僕の仕事だから。心配しなくていいよ笑。」そう言ってくれたんだよね。だから僕はお客さんが殆どいない状態からでも肉販売を軌道に乗せることができた。
誰もが取り組めるような流通を作ることは難しい。個人で取り組むにも限界がある。国内のグラスフェッドビーフ生産に向けて最も大切なのは、生産者、肉屋、飲食店が思いを共有すること。仕組みよりも人とのつながりなのだと思う。

フランス地方料理MOMOKA三村シェフと。

ちなみに我が家では筋引きしていないサーロインは卸値でキロ20,000円。
そう言うと多くの飲食店の方が驚きながらこう言う。
「A5の黒毛和種でももうちょっと安いですよ。。。」と。
グラスフェッドの需要が増えているといっても現実はこんなもんだ。過剰に期待する方が間違っている。伝える努力も関係性もまだまだ足りていない。

グラスフェッドビーフの生産が国内で普及しないわけ

牛はお肉になるまで3年近い歳月をかける非常に手間のかかる動物です。餌一つ変えるにしても結果が出るのは何年も先のこと。目先のブームでコロコロと飼い方を変えれるものではない。また、現在黒毛和種は輸出や外国人観光客のおかげで何年も品薄状態が続いています。先日も神戸中央卸売市場では神戸ビーフの枝肉単価が過去最高値を記録したばかり。
霜降り牛肉として黒毛和種の需要が強い中で、少し流行っているからとグラスフェッドに転換する農家がいないのは当然のことです。

そして忘れてはいけないのは、畜産農家は皆自分の仕事に誇りを持っているということ。
魅力がないと人は取り組まない。それはグラスフェッドの生産販売の難しさや霜降り牛肉が高いからといったことだけではなく、今の仕事に魅力を感じている人が大多数だからグラスフェッドは普及していない。そういう視点も忘れてはいけないことだと思うんだよね。
一方でジャージ種やブラウンスイス種の雄子牛など、市場性の低い牛にグラスフェッドという付加価値をつけて売る取り組みは今後増える余地があると思っている。
ただ、いずれにせよ普及するには頭数が圧倒的に足りていない。

生産者、肉屋、レストランが一体となって長い年月を見越して地道に仕組みを作り上げていくか、個人が全てマネジメントして小売まで手がけるか。
国産グラスフェッドビーフの普及は難しい、というか無理だ。

均一的なグラスフェッドビーフを普及させることより、思いを持った農家がそれぞれ特徴のあるグラスフェッドビーフを生産する。
そうなってくればメインはグラスフェッドではなくてその農家その人が価値になるのかもしれないね。
11年グラスフェッドに関わってきて、今そんなことを思っています。


The following two tabs change content below.
田中 一馬
1978年生まれ。兵庫県三田市出身。田中畜産代表。小さい頃から動物が大好きで北海道酪農学園大学へ入学。在学中に畜産の魅力に目覚め、大学院を休学して2年間畜産農家で住み込みの研修に入る。2002年に独立して田中畜産を設立。但馬牛の子牛生産をメインに、牛の蹄を切る削蹄師として全国の牛の蹄をサポートをしている。2008年に精肉部門を立ち上げ、自家産の但馬牛で放牧牛肉の生産と販売に挑戦中。