先天的な疾患による死亡事故は繁殖農家の課題でしかない

朝削蹄に行く前に牛舎に行って餌をやる。
「べえええええええええーーーーーーーー。」と鳴く声がする。
明らかにおかしな声。

「子牛が親に踏まれたか!?」
そう思って産室に走るといつも通りの風景。
ふと後ろを振り向くと通路に糞にまみれた子牛が生まれていた。

最も近いお産で1ヶ月後。
「しまった!!1ヶ月の早産はヤバイ!!」
駆け寄って僕は唖然とした。
産んだのは2ヶ月後に産む予定だった牛。
子牛には毛はおろか歯も生えていない。。。

薄い皮1枚で皮下脂肪もなく、内臓の動きがリアルに見える。
動向も半分開き、まさに死の直前だった。

糞まみれの子牛を抱きかかえ、そのまま家の風呂に直行。
低体温症の子にはお風呂が最も効果的だからだ。

ただ、こんな早産の子は今まで育てたことがない。
正直自信が無かった。

でもこの子は僕の想像以上に生きる意志の強い子牛だった。
意識朦朧としながらも指をしっかりと吸う。

そして自力で初乳を飲んだ。

「行けるかもしれない。。。」

目の前の低体温症の壁は3時間の入浴で回復、自力で哺乳もできたことで体温も維持できる状況はできた。

でも、

ダメだった。

死因は窒息死。
早すぎて肺が未発達であったことが原因。
脇の下にある心臓の鼓動が止まるまで、僕はずっと手を当てることしかできなかった。

牛を飼っているとこういうことはある。

牛の死に慣れることはない。
割り切ってもないし、心折れることもない。
ただふとした瞬間に「チクショウッ!!」って叫びたくなる。時々ね。
色々と思うことはあるけど、間違いないのは僕が元気でいることの大切さ。
だから飯も食う。笑うし酒も飲む。
向き合うことの繰り返しがこの仕事だと思っている。

昨年は1年半子牛の死亡事故がゼロ。
そんな僕に「勘違いしてんじゃねえ!!」と、今年は5頭の子牛が立て続けにダメになった。

先天的な腎疾患が3頭(2頭はまだ生きてる)、

予定日を過ぎたのに8キロしかなかった子牛、、、

そして今回の早産。

悔しさしかない。

「今年は事故が続くわ。。」と少し漏らした僕に、獣医師は「全部不可抗力じゃないですか。」と返してくれた。

昔は遺伝による事故は仕方ないと思ってた。
自分に過失がないと知ってホッとしたことも正直な話ある。

でも今はやっぱ全部悔しい。
先天的なものも含めて全部自分の課題だと思う。

繁殖農家は肥育素牛を生産するだけの農家じゃない。
改良の方向を決めて礎を作るのが繁殖農家だろって思う。
だから先天的な死亡例も全部人為的な事故。

自分の力でもなんでもない単なる和牛子牛バブルを我が力だと過信し、この事故は仕方ないなんてズレた牛飼いは絶対嫌だ。

死んだ子牛たちにはただただ申し訳ない。
それでも僕は傲慢だから、何度でもやり直す。

年老いて牛についていけなくなっても最後までしぶとく、僕の思う牛飼いを全うしたい。


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田中 一馬
1978年生まれ。兵庫県三田市出身。田中畜産代表。小さい頃から動物が大好きで北海道酪農学園大学へ入学。在学中に畜産の魅力に目覚め、大学院を休学して2年間畜産農家で住み込みの研修に入る。2002年に独立して田中畜産を設立。但馬牛の子牛生産をメインに、牛の蹄を切る削蹄師として全国の牛の蹄をサポートをしている。2008年に精肉部門を立ち上げ、自家産の但馬牛で放牧牛肉の生産と販売に挑戦中。