親牛が子牛に乳を飲まさない時の対処法。

Facebookを見ていると京都で牛飼い始めた友人が初めてのお産があったようで「初産のために母牛自身がどうしたら良いのか解らなかったみたいで、パニックになっていました。子牛に触れようとすると猛烈な突進してきました。かといって濡れた子牛を舐めて乾かすでもなく、モウモウと唸っていました。」と投稿していました。
なので、今日は親牛が子牛に乳を飲まさない時の対処法を書いていこうと思います。

通常はお産をした母牛は子牛を舐めます。
生まれた子牛は羊水でベタベタなので親牛がザラザラした舌で舐めて子牛をきれいにします。

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この舐める行為をリッキングといい、子牛は舐められる刺激で血行が促進され活発になります。
活発になった子牛は早く立ち、早く乳を飲み、病気に対する抵抗力をつけます。
しかし、中にはパニックになって子牛を舐めない親牛や子牛を角で突く牛までいます。
冬場に親牛が子牛を舐めないと濡れた子牛の体はどんどん冷え、最悪の場合低体温症で死んでしまいます。
また、こういった親牛は母乳を子牛になかなか飲ませません。

子牛が頑張って乳を飲もうとしても、親牛が子牛のことを怖がってしまい力いっぱい子牛を蹴ります。
蹴られた子牛はそれでも頑張って飲もうとしますが、蹴られ続けるうちに飲む気力を失い、飲むことを諦めてしまうのです。
そうしている間に親牛の乳はパンパンに張り、乳の張る痛みと子牛に対するパニック、そして子牛の哺乳欲の低下でますます母乳を飲ますことが難しくなります。

しかし、最初のちょっとしたきっかけで親子の関係性を取り戻すことは可能です。
今日はそんな話をしたいと思います。

ふりかけ作戦

分娩後子牛を舐めない親牛であっても、フスマなどの濃厚飼料は大好きなので食べます。
羊水でベトベトの子牛にフスマや濃厚飼料をふりかけると、母牛は子牛に振りかけられた濃厚飼料を食べようと子牛を舐めます。
ここでスイッチの切り替わる母牛は意外にいます。
濃厚飼料を食べる流れで、母性のスイッチが入って子牛を舐め出せばしめたもの。
そのまま親子の関係性を築いていくことができます。
子牛に餌をかける。
こんな単純なことで親子の関係性は回復することがあります。

保定作戦「鼻」

ふりかけでもダメな時は、親牛の代わりに一旦人間が介助に入ります。
ワラやタオルで羊水がなくなるまでなんどもなんども子牛を拭きます。
胎便を出してあげることも有効です。
親が角で付いてくるようなら隔離や親を繋ぐこともしなくてはいけません。
まずは、子牛が自力で立って乳を飲もうとするところまでサポートします。

そのまま隔離して人工哺乳で飼育するという方法もあります。
しかし、親牛の母乳に勝るものはありません。
ふりかけが通用しない牛はかなり神経質になっていることが多く、ほぼ間違いなく子牛が乳を飲もうとすると蹴ります。
この蹴りは結構激しくって、僕も鼻の骨を折られたことがあります。
なので「子牛が蹴られないように乳を飲ますこと」が飼い主の大切な仕事になります。
一度子牛が乳を飲むことを覚えてしまえば、多少蹴られようが子牛は頑張って乳を飲みます。
そして、そのうち母牛も飲ますようになることも意外と多いのです。

①まず、鼻で親牛を保定します。
鼻木がないときはモクシで十分です。
鼻木の時は直接柱に繋ぐのでなく、耳の後ろにロープを回すことで親牛の転倒を防げます。
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鼻で保定することで牛は前後に動けなくなります。
そうなると後は左右の動きだけコントロールすればよくなります。
しかし、鼻保定が緩いと牛の行動範囲が広がり「暴れられる」と理解した牛はますます嫌がる悪循環にはまります。
鼻保定をしっかりとすることは牛の足を持ち上げる削蹄でも基本中の基本なのです。
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(保定がしっかりしていれば後ろ足を上げても牛は大人しい。)
この鼻保定だけで乳を飲ます牛もいます。

保定作戦2「肩」

鼻保定だけでは前後は抑えられても、牛の左右の動きはコントロールできません。
鼻を起点にして牛は180度扇状に動きます。
その為、人が牛の肩に入り牛の動きを制限します。
肩に人が入ることで牛の動く起点が鼻から肩に変わります。
これだけで左右に動く牛の動きを大きくコントロールすることができます。(前後の動きは鼻保定でコントロール済み)
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子牛がまだ弱い時は母牛が左右に動く動きで倒され、哺乳欲を失ってしまうパターンが多いのです。
左右の動きの制限は子牛にとって乳を飲むための大きな助けとなります。

クツワ作戦

鼻保定で前後の動き、肩に入ることで左右の動きをコントロールできるようになりました。
それでもまだまだ本気で蹴る牛もいます。
こういう牛は子牛が乳首を吸うことに過敏になっています。
こんな時は乳首を吸う子牛のことよりも、他のことに気を向けてやります。
例えば、肩に入った状態で母牛が子牛を蹴ろうとしたときに背中をつまんだり声を出す。
とにかく気を散らすのです。
気が散るので牛は蹴りません。
しれでもダメな時には気を散らす最適な道具があります。
それが「クツワ」です。
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これは牛の口の中に入れるもので、これを入れられた牛は気になってくっちゃくっちゃクツワを噛んでしまいます。
これがかなりの効果があり、クツワを入れるだけで乳を飲ますことも可能です。
①鼻保定②肩に入る③クツワを入れる④声を出すなど気をそらす。
これでほとんどの牛は乳をのますようになります。

何度も言いますが、子牛が乳を飲むことを覚えることが大切です!!
一度覚えると子牛が蹴られても頑張って飲むようになり、その過程で親子関係ができることが多いからです。

効果はあるけどおすすめしない牽引法

削蹄の時でも、蹴って蹴って仕方のない牛は後ろ足をロープ引っ張って牛の動きを封じることがあります。
これをすると絶対牛は蹴りません。
しかし、数分間蹄を切る削蹄と違い、哺乳は毎日のことです。
子牛が小さい頃は1回の哺乳に20分以上かけることもあります。
さらに子牛は1日に何度も乳を飲みます。
その度に足を引っ張っるのは現実的ではなく、親牛にとっては「乳をのますこと=嫌なこと(足を縛られる)」になってしまいます。
こうなると人間の介入なしに哺乳ができなくなります。
短期的に飲ます方法としてはありですが、今後の親子関係を考えると僕はあまりおすすめしません。

究極!足持ち哺乳法

この方法で今まで乳を飲まさなかった子牛はいないくらい有効な方法、足持ち哺乳法。
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削蹄を始めた頃、牛に蹴られることはしょっちゅうありました。
しかしそんな僕でも前足の削蹄をしているときは蹴られませんでした。
牛は基本的に両方の脚を上げることができないからです。
(本当にたま~に足上げても蹴る強者はいますが。。。)
これを哺乳に応用することで親牛は子牛を蹴ることがなくなります。
ロープで引っ張るように牛を無理やりロックするのではなく、牛の動きに合わせて脚を上げるので牛にも負担が少ないのが良いところ。
ただ牛の前脚を上げるだけ。
これでほとんどの子牛に乳を飲ますことができます。
(鼻保定は必須です。クツワもあればベスト。)

この写真の牛も子牛を角で突いて、蹴り倒す神経質な牛でした。
1日4回。この方法で哺乳させることにより、3日目には人間の介助なしでも哺乳させてくれるようになりました。
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(以前facebookでこの方法を紹介したら壱岐の阿部先生が試してブログで報告してくださいました。阿部先生のブログは「こちら」と「こちら」)

もし、この時余裕があれば完全に腰に足を乗せないのがポイントです。(乗せてもいいですよ)
足を腰に乗せきってしまうと、親牛が人間を起点にして子牛を蹴ることがあります。
足持ちが不安定だと蹴ろうとしたときバランスを崩すので親牛はなかなか子牛を蹴れません。
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牛に優しく効果てきめんの足持ち哺乳法。
どうしようもないときにやってみてください!!

あ、前足持つときに蹴られないように注意してくださいね。


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田中 一馬
1978年生まれ。兵庫県三田市出身。田中畜産代表。小さい頃から動物が大好きで北海道酪農学園大学へ入学。在学中に畜産の魅力に目覚め、大学院を休学して2年間畜産農家で住み込みの研修に入る。2002年に独立して田中畜産を設立。但馬牛の子牛生産をメインに、牛の蹄を切る削蹄師として全国の牛の蹄をサポートをしている。2008年に精肉部門を立ち上げ、自家産の但馬牛で放牧牛肉の生産と販売に挑戦中。