50cmのハイヒールは履けない

削蹄をしているといろいろな蹄に出会います。

牛は人間で言う中指と薬指の2本の蹄で立っています。
ハイヒールのようにつま先立ちで、重い時には1トン以上の体重を支えています。

しかし、このハイヒールは人間のハイヒールとは大きく2点違います。

それは、
①脱げないということ。
②伸びるということです。

①脱げないということ

エンドファイト中毒などで末端が壊死して蹄の鞘が抜ける。というような例外はありますが、牛の蹄はぴったりとくっついており中の蹄骨がグラグラすることはありません。
24時間つねにハイヒールです!
こう書くと結構きついが感じしますが、これは牛が進化して作り上げてきた形なので、牛は「つねにハイヒール」を負担に感じていません。(と思います。)

②伸びるということ

しかし、この脱げないという状態に伸びるという条件が加わると一気に牛の負担は増えます。
放牧などをしている場合、伸びる蹄と地面で削れる蹄のバランスがちょうど良く、理想的なサイズの蹄を維持することができます。
一方、糞尿でぬかるんだオガクズやゴムマットの上のつなぎ牛舎などの蹄が摩耗しない環境下では牛の蹄は伸びていきます。

こうなるとツライ。
普段ならこのくらいの蹄の底も、こんなふうに倍くらいに伸びることがあります。
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(この写真は同じ牛の右前肢の外蹄の削りカス。削蹄することでこんなにすっきりします。)

2倍です。。。
24.5cm足のサイズの方が50cmのハイヒールを履くなんてありえないでしょ。

しかも足は固定されていて脱げません。
おまけに体重800kg。。。。なんてことになれば足痛めますよね。

この子は上記写真の子とは違いますが、つらそうですよね。
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こうなるといくら削蹄で形を整えてもすぐにまた同じような蹄になります。
若い頃からこまめに蹄の形を維持していくことが大事です。

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(右足だけ削蹄。左足と右足で立ち方が違うのがわかるでしょうか?)

人間と違って家畜である牛は立てなくなるとまず廃用になります。
寝たきりの介護は治る見込みのあるときや、お腹に子供がいて生まれるまでの間といった限られたケースのみです。
また、立って歩くことができても足が痛くてはエサ箱に行く回数も減り生産性は大きく落ちます。
大きな牛だからこそ小さな足元が大事なのです。


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田中 一馬
1978年生まれ。兵庫県三田市出身。田中畜産代表。小さい頃から動物が大好きで北海道酪農学園大学へ入学。在学中に畜産の魅力に目覚め、大学院を休学して2年間畜産農家で住み込みの研修に入る。2002年に独立して田中畜産を設立。但馬牛の子牛生産をメインに、牛の蹄を切る削蹄師として全国の牛の蹄をサポートをしている。2008年に精肉部門を立ち上げ、自家産の但馬牛で放牧牛肉の生産と販売に挑戦中。