子牛を寒さから守るには

3月に入り、少しずつ春めいてきました。

こういった季節の変わり目は人間だけでなく、牛たちも体調を崩しやすくなるので要注意です。
特に但馬牛は他の牛に比べて弱く、寒い時期に野生動物のように屋外にほったらかしているとすぐ風邪をひきます。
そして、最悪死んでしまうこともあります。

この繊細な但馬牛の能力をしっかりと引き出すために僕らは牛飼いをしています。

と、言ってもピンと来ないですよね。
僕が牛飼いを始めて13年。
色々な消費者の方々とお話しをするなかで、世の中には畜産に対する誤解や片寄ったイメージが普及していると感じています。

またその一方で畜産サイドからは意識的に偏ったイメージを発信していることが多いとも感じています。
これは両者との間に大きな距離があるからだと思っています。

僕は自他共に認める片寄った人間ですが、「牛飼い」として自分のなかでしっくりすることだけを伝えることで、たくさんの方により身近にうしを感じていただくことができるのではと考えています。

このブログを通して牛とお肉の世界を身近に感じていただければ嬉しいです。


さてさて、今日は牛と温度管理について書いていきます。

牛は基本的に寒さに強く、暑さに弱い動物です。
その大きな理由はルーメンと言われる牛の第1胃にあります。
ルーメンはとても大きい胃袋で、親牛ではドラム缶一本分の容量があります。
また、食べたものを微生物の力で発酵させている発酵タンクでもあります。

このお腹の中でおきている発酵熱が大きな湯たんぽのような役割をするため牛は寒さに強いと言われています。
逆に、この湯たんぽを暑い夏に抱えていたら。。。。。。キツイですよね。。。
これが牛が暑さに弱い理由のひとつでもあります。
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(これが牛の胃袋。大きいでしょ!!)

このルーメン、ホルモンで言うところのミノ。
焼肉屋などでミノを食べるときに格子状に隠し包丁を入れてあるのを見たことないでしょうか?
そのままでは噛み切れないくらいミノは分厚く大きい!
それは毎日牛が草を食べ胃袋を撹拌することで鍛え上げた証なのです。
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(胃袋の薄皮をむくと見慣れたミノが現れます。)

しかし、生まれたばかりの子牛はこの第1胃の発酵タンクが全く発達しておらず、湯たんぽとしての役割を果たしてくれません。
実は牛の4つある胃袋の1~3番目までは人間のような胃酸の出る「胃袋」ではなく食道が進化してできたもで、人の胃と同じ働きをするのは第4胃。
子牛は生後2ヶ月までは栄養を草ではなく母乳で補うため、発酵タンクの第1胃ではなく、第4胃が子牛の胃袋のメインとなるのです。

こういった理由から寒さに強い牛であっても、子牛だけは全く別の扱いが必要になってきます。
また子牛は体が小さく皮下脂肪が少ないため、どうしても外気温の影響を大きく受けてしまいます。

そんな時の寒さ対策を一挙まとめてドドーンとお伝えします!

①寒い時には服を着る

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実は子牛用のジャケットというものがあります。
フリース素材、防水、カイロを入れるポケットつき、蓄熱保温素材、吸湿発熱性素材などの販売されているものから餌の紙袋、余った毛布で手作りするものまで牛の服の種類は多岐に別れます。
とても暖かく効果抜群なのですが、子牛の体型がわかりにくく、牛の状態を把握するときに支障を感じたため現在我が家では使っていません。
このジャケットに代わるものとしてネックウォーマーを今は使っています。
これは100円ショップの人間用のものを子牛にかぶらせるだけ。
首には太い血管が走っているため、首をあたためることは保温効果が高いのです。
ネックウォーマーはコスパが高く気に入っています。

②お腹を冷やすと全てが台無し

人間でもおなかを冷やすと体調崩しますよね。
牛も同じでお腹を冷やさないことが病気の予防に大きな効果を発揮します。
お腹を冷やさないためには腹巻き!といきたいところですが、オス子牛はお腹の下からおしっこをします。
そのため腹巻きは牛には向かないのです。
お腹を冷やさないためには床を乾かすことが一番重要!!
床が糞尿でびしょ濡れだとどんなに服を着せようが全く意味がありません。
床の敷料にはオガクズや籾殻などが一般的ですが、小さい子牛の場合はワラが一番です!
厚く敷いたワラは空気を含み、とても暖かいのです。
昔の人は「牛に草を食わせるより床に食わせろ」と言っていたと聞いたことがあります。
そのくらい床の環境は最重要項目なのです。

③寒さよりもすきまかぜ

気温はそこまで低くないけど、風が吹けば体感温度はぐっと下がりますよね。
牛舎の中でのすきま風は子牛の体感温度をグッと下げます。

そのため冬場は牛舎全体をシートやカーテン、コンパネで囲います。
これは実は諸刃の剣で、囲いすぎて空気が澱んではかえって風邪が蔓延してしまいます。
換気と保温のバランスが大事。
換気はするが、すきま風は防ぐ。これです!

ちょっと余談ですが、雪が多いのに暖かいってこともあるんです。
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ここまで雪が積もると牛舎が雪におおわれてすきま風をシャットアウト!かまくらのように牛舎内の温度が安定します。
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今年昨年と雪は少なかったですが、数年前はこんなに降る日もありました。
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(でも、こんなに雪はいりません。。。。)

④これはあったかヒーター

ここらの牛飼いでは当たり前の暖房設備。
それがこの投光器です。
子牛の寝床の上に設置することで上部から牛を温めることができます。
なんとなく暖かい程度ですが、寒い環境の中でこういった少しでも温まる場所があるとないとでは全然違います。
子牛が体調を崩した際の落ち込みを抑えてくれます。
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こちらは牛専用のヒーター。
300w~500wの投光機と違い、なんと2100wもあります!
これは遠赤外線で本当に温かく、温める範囲が広いためとても重宝しています。
このヒーターのおかげで救われた命は本当に多いです。
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ヒーターを導入する前は部屋の中で保温したりもしました。この時は早産でした。
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また、我が家にはありませんが熱源入りのゴムマット、コンクリートの床暖房、エアコン付き牛舎、自動温水給水器などの暖房設備を揃えているところもあります。うちに欲しいくらいです。。。

⑤緊急時にはお風呂へgo

生まれてすぐ、低体温症になった子牛には即お風呂です。
寒い時は暖房より、服より、布団より、お風呂ですよね!!
38度くらいのお湯に2時間ほど入れます。
意識が飛んで瞳孔が開きかかった子牛であっても、お風呂で戻ってきてくれます。
とにかくすごいです。
ただ、これは生後1週間を過ぎた牛にはほとんど効果を発揮しない気がしています。
それでもこのお風呂の効果はすばらしく、数ある保温法の中では別次元の効果をもたらしてくれます。

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⑥エネルギーロスを防ぐ油

生後1ヶ月齡くらいまでの子牛にパーム油(ネオドリンクーc)などの中鎖脂肪酸を与えることで子牛の維持エネルギーをサポートし、寒さによるストレスでの落ち込みを予防することができます。
これはあくまで30kgの子牛の維持エネルギーをサポートするだけなので、これで子牛が大きくなるとかはありません。
半分気休めのような気もしますが、結果的に冬場の哺乳子牛の疾病が大きく減ったので哺乳期の寒さ対策としてはアリなのかなと思っています。

⑦最強は母乳と元気な子牛

いろいろ書きましたが、これにつきます!!!
母牛がたくさん乳を出すことで子牛の栄養状態はよくなり、栄養状態が良くなると子牛の免疫が上がります。
また、生まれる前の母牛の管理を適正にすることで元気な子牛が生まれます。
元気な子牛は母乳をしっかりと自分のものにするので、病気に強い子牛でいることができます。
直接的な温度管理とは違いますが、「寒さに負けない子牛を作る」というのは究極の温度管理かもしれません。

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春一番は吹きましたが、まだまだ寒い日もあります。
牛も人も元気な状態で春を迎えたいですね。

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田中 一馬
1978年生まれ。兵庫県三田市出身。田中畜産代表。小さい頃から動物が大好きで北海道酪農学園大学へ入学。在学中に畜産の魅力に目覚め、大学院を休学して2年間畜産農家で住み込みの研修に入る。2002年に独立して田中畜産を設立。但馬牛の子牛生産をメインに、牛の蹄を切る削蹄師として全国の牛の蹄をサポートをしている。2008年に精肉部門を立ち上げ、自家産の但馬牛で放牧牛肉の生産と販売に挑戦中。