牛の命令語

こんばんは。
田中畜産の田中一馬です。

今日は牛の命令語です。
命令語って聞きなれない言葉ですよね。
最近のブログの動画で、僕が「バーバーバー」と牛に向かって話していたのを憶えてますか?
あれは「落ち着けよ~」っていう命令語。

牛と人間は喋ることができません。
しかし、人間の意志を牛に伝えることはできます。
それが調教です。
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調教は①鼻木②綱③命令語を用いて牛に人間の意志を伝え、コントロールする方法。
昔は牛は全て農耕用で、田んぼを耕すために飼われていました。
耕す際に思った方向へ牛を動かせることができなければ仕事になりません。
調教は牛との大切なコミュニケーションの手法なのです。

研修時代、種雄牛の調教を毎朝させていただきました。
調教は綱の打ち方が基本ですが、これに合わせて言葉も用います。

例えば止マレは「バッ!」
進めは「シッ!」
左に旋回するときは「ハチハチ」
落ち着かせるときは「バーバー」など。
僕はこの4種くらいしか知らなかったのですが、もっと他にもあったようです。

命令後は地方によって違うのですが、各地でマチマチだと遠くから買い付けにこられた時に言葉が違うので不便。
そのために共通用語があったんですって!!

そんなことがこの本に書いていました。
『農用役牛の飼い方』(石原盛衛著 昭和22年発行)
かなり年代物の冊子です。
僕はこういうの集めるのが好きなんです。
ちょっと目次を見てみますか?
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おい!!
誰やラクガキした奴!!!!
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この本によれば12種類の共通用語があるそうです。
・前進(前へ歩き始めさせるとき)【シッ】〔シに力をいれ、やや短く発音する〕
・加速(歩き方を早めるとき)【ハイハイ】〔ハに力をいれ続けて発音する〕
・右折(右回り、あまたは右に進ませるとき)【セー】〔右寄りにも用いる〕
・左折(左回り、あまたは左に進ませるとき)【サシ】〔サにやや力を入れて発音する。〕
・漸止(そろそろ止めるとき)【バー】〔おだやかに発音する〕
・停止(止めるとき)【バ】〔力を入れて強く短く発音する〕
・後退(後ろへ下がらせるとき)【アト】〔アに力を入れて発音する〕
・擧肢(肢を上げさせるとき)【アシ】
・注意(牛に注意を与えるとき)【オーラ】〔おだやかに発音する〕
・鎮静(牛を落ち着かせるとき)【バーバ】〔おだやかに発音する〕
・愛撫(牛を可愛がるとき)【オーラ】〔おだやかに発音する〕
・懲戒(牛をしかるとき)【コラ】〔短く強く発音する〕
(※農用役牛の扱い方より抜粋)

面白いでしょ!!!

これって意外に牛の生理にあっていると思うんです。
牛は音に敏感な動物。
落ち着かせたい時はおだやかに、動かしたい時は短く力を入れて発音する。
そこから生まれた言葉って日本人と牛との歴史だと思うんですよね。

世界的に有名な動物学者テンプル・グランディン著の『動物感覚』では農場の動物が怖がる細かいものを18の項目で説明しています。
その中に【空気の抜けるときのしゅーしゅーという音や油圧装置がきーきーきしむ音など、かん高い音が問題なのは、それが動物の危険を知らせる鳴き声にきわめて近いためだ。】
という一文があります。
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調教で前進させる時に使う命令語も、まさに風を切るような「シュッ」って音で牛を追うんですよ。
こういうのってすごく面白いと僕は思うんです。

牛が何を考え、感じているのか、すこしでも牛の感覚に近づきたいな。

それにしても、この本、マニアックやわ。。。。
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田中 一馬
1978年生まれ。兵庫県三田市出身。田中畜産代表。小さい頃から動物が大好きで北海道酪農学園大学へ入学。在学中に畜産の魅力に目覚め、大学院を休学して2年間畜産農家で住み込みの研修に入る。2002年に独立して田中畜産を設立。但馬牛の子牛生産をメインに、牛の蹄を切る削蹄師として全国の牛の蹄をサポートをしている。2008年に精肉部門を立ち上げ、自家産の但馬牛で放牧牛肉の生産と販売に挑戦中。