美方郡産但馬牛という『物語』は必要か?

こんにちは。
美方郡で但馬牛を飼っている田中一馬です。

ブランドとして生きていくには物語が無いとダメ

今日は地元で畜産講習会がありました。
兵庫県立北部農業技術センター野田所長による「美方和牛への提言」というお話。
今後の美方郡での但馬牛のあり方を考える上で是非聞くべきだと思い、参加しました。
(美方郡の但馬牛について書いた過去記事はこちら→「美方郡産但馬牛」)
但馬牛講習会その中で美方郡閉鎖育種の必要性について質問したところ、「ブランドとして生きていくには物語が無いとダメ。美方郡閉鎖育種は必要だと思う。」といったコメントをいただきました。

実は閉鎖育種の是非を問うとき、この「美方郡閉鎖育種という物語の必要性」を結構説かれます。

物を売る際には物語が必要とか聞きますよね。
確かに僕もそう思います。

でも、そもそも「物語」とは一体何なのでしょう?

畜産関係者が唱える但馬牛の物語とは。。。。

『美方郡産但馬牛の物語』というとどんなことを思い浮かべますか?
牛飼いも含めた畜産関係者が考える物語とはだいたいこんな感じが多い。

但馬牛は1200年前の続日本紀にも名前のある、歴史ある牛です。
牛がまだ農耕用だった時代、山間部であった但馬地域では他の地域との交配ができず閉鎖された環境下で交配していました。
何百年と言う歴史の中で遺伝的に固定された系統が生まれ、今の但馬牛はつくられた。
そんな但馬牛は日本の和牛改良の基礎となる牛でもあります。
なんと、現在の黒毛和牛の99.9%には田尻号という但馬牛の遺伝子が入っています。
中でも美方郡は但馬牛発祥の地。
もちろん田尻号も美方郡の牛です。
現在、但馬牛は兵庫県下全ての地域で飼われています。
但馬牛の種雄牛は全て兵庫県が管理し、その種牛を元にして兵庫県下の但馬牛は生産されます。
これを「兵庫県内閉鎖育種」と言い、但馬牛が和牛の中でも特別視される理由の一つです。
全国的に黒毛和種の血統構成が単一化(流行りの血統に偏るから)している中、但馬牛だけは純粋な種として血統を守っている。
これって和牛の遺伝子を資産として考えたときにすごい貴重なこと。
その中でも兵庫県北部の美方郡は兵庫県内閉鎖育種はもとより美方郡内閉鎖育種を行ってきました。
他の牛とは歴史・伝統が違う。
いわば美方郡産但馬牛は日本の和牛のルーツなのです!!!

実際に特別な牛として「美方郡の但馬牛こそ但馬牛」と高く評価された時代がありましたし、そのことを今も誇りとして牛飼いをされている方は多いです。
しかし、これって本当に但馬牛の物語なんでしょうか?

事例の裏側にあるものが物語

但馬牛の原産地である美方郡では、美方郡だけの純血を守っている!!
確かにこれは他にはない特別な事例です。
しかし、これが本当に必要な物語かと言われれば僕は違うんじゃないかと思います。

明治時代、但馬牛の改良にブラウンスイス種やデボン種等の外国の牛が用いられたことがあります。
そういった血液は早々に淘汰されたのですが、外国種が用いられた当時は様々な思いや背景がありました。
平成12年に発行された『新但馬牛物語』にはこんなエピソードが書かれています。

おそらく、従来の和牛より(ブラウンスイスとの雑種は)大型の子牛が生まれたことに惑わされて、二代目はもっと優秀なものが生まれると錯覚したのであろう。
目の前の利益に釣られて、のめり込むのは人の世の常で、家、屋敷から水田、山林まで抵当にして資金を作り、ブラウン雑種の生産に血道をあげた人ができたということである。
(また、雑種全盛期の畜産共進会で純潔の但馬牛が主席になったたことに対して)
国も県も推奨しているブラウン雑種を、国から派遣された審査長が、ないがしろにするとは何事かと、激高のあげく、こん棒や手斧で審査長を追った。

当時の情景が想像できて、昔の事であってもすごく親近感がわいてきますよね!
ブラウンスイスの血を入れた事例に対しても、様々な角度からの物語がある。
そこには全て人の営みがあり、その時代時代を生きた人間の思いがあります。

もし、今淘汰したはずのブラウンスイス種の遺伝子が但馬牛に残っていれば、但馬牛の物語は無くなってしまうものなのでしょうか?
そんな薄いもんじゃないですよ。

但馬牛の物語とは事例でなく、その裏側にある人の営みや思いそのものなのです。
だから決して無くなることはありません。

美方郡産但馬牛はすごい物語になる!

「美方郡の牛は閉鎖育種でこだわっている!!」って言うのは99%が生産者。
実際一般消費者には全然届いていませんし、届いたところでただの豆知識で終わってしまう。

美方郡産但馬牛の物語ってそんなもんじゃないと思うんです。
この地域で1000年以上、先祖代々但馬牛を飼って暮らしていること。
美方で暮らす人間が発する地元の魅力、楽しさ、苦労、思い出、各々の家の歴史が美方郡産但馬牛の物語です。
その但馬牛物語は神戸ビーフ、松阪牛、日本の和牛の物語でもあります。
こんな地域は世界中でここだけです。
だからこそ「美方郡産但馬牛は凄い物語があるんだよ!」って僕は伝えたい。

ただ、どんな素晴らしい物語も届かなくては無いも同じなんです。

血の通った但馬牛物語を届けるには?

現在は人類が経験した事のない情報過多の時代と言われています。
スマートフォンの普及によりこの数年で大量の情報を24時間どこにいても手に入れられるようになりました。
その結果、情報を選択する手段が従来から大きく変わってきています。

芸能人がテレビで「すごいでしょ」って宣伝すれば売れたのは昔の話。
物語があるだけで選ばれる時代はとっくに終わりました。

美方郡閉鎖育種という事例では物語の価値になりません。
各々が今営むリアルな牛飼いの話こそが多くの方にとって共感を生み価値のある物語になっていきます。

個人が発信していくことは手間です。面倒くさいしリスクもある。
すぐに結果は出ない。

しかし、物語りを伝えるために必要なのは個人個人が発信していくことです。
そしてその為には覚悟と行動力が必要です。

美方郡の牛飼いがみんなブログ書けば、凄い物語になります。
「ははは~、ブログかよ!」って思いますか?
僕は読んでみたいです。

但馬牛畜産講習会

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田中畜産 代表 田中一馬

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田中 一馬
1978年生まれ。兵庫県三田市出身。田中畜産代表。小さい頃から動物が大好きで北海道酪農学園大学へ入学。在学中に畜産の魅力に目覚め、大学院を休学して2年間畜産農家で住み込みの研修に入る。2002年に独立して田中畜産を設立。但馬牛の子牛生産をメインに、牛の蹄を切る削蹄師として全国の牛の蹄をサポートをしている。2008年に精肉部門を立ち上げ、自家産の但馬牛で放牧牛肉の生産と販売に挑戦中。

コメント

  1. 佐藤玲史 より:

    こんばんは。佐藤@高千穂です。
    ブログに初コメントさせていただきます。
    「和牛に物語は必要か?」と問われれば、「必要」だとは思います。
    巷にこれだけ食の情報があふれる中、いまだに「国産牛」、「和牛」の違いも浸透せず、また一方では「値段が高いことは悪である」なんて風潮がある中、「物語」を付けないと納得させられないのではないかと・・・
    ただ、「兵庫県内閉鎖育種」に関しては、頑なに遵守しつづけて欲しいし、国が本気で力を入れるべき点だと思います。
    また、美方郡内閉鎖育種については、BLVやヨーネ病、B.V.D-MDなどの病気予防の観点からみれば、母牛の域外からの導入は避けていただきたく思います。
    これから先の子牛生産において、BLVは特に注目を浴びてくる(きている)疾病です。末端の消費者が「牛白血病」なんて聞いたら、牛肉離れしてしまうかもしれませんしね(笑)
    話を元に戻します。情報が「真実」も「悪意ある誤報」も、「推測」もあって、そこら中にあふれている現代だからこそ、しっかりしたバックグランドに裏打ちされた物語をつづけていくことは大事なんだと思います。

    ここ高千穂も(但馬ほどではないですが)、古くからの牛の産地である記述がありますし、近代において役牛から肉牛への変遷を経るにあたり「物語」がありますが、なかなか地元民であってもその内容を語ることができる人は少なく、また知る人も高齢化により語り継ぐことなく鬼籍に入られたりもしています。
    そんな中、知り合いの県職獣医師が「高千穂牛物語」という一冊の本にまとめてくださいました。(ただね、部数が少ないから高いのよ…(/_;))

    • 田中 一馬 田中 一馬 より:

      佐藤さん。こんにちは。物語は必要だと僕も思います。ただ、物語は全ての商品にあるもので、消費者に選ばれる物語とは何かとしっかり考える必要があると思います。単なる歴史の説明では伝わらない。他人の人生話に興味がわかないけど、知り合いなら聞いてみようと思いますよね。だからこそ農家が個を出して発信と繋がりを作っていくしかないと思うんです。それがあっての物語だと思います。物語はあるだけでは価値にならないんですよね。さっそく高千穂牛物語を買ってみようと思いましたが、グーグル検索しても出てきませんでした。。。。(笑)
      美方郡閉鎖育種については方法は色々あると思います。
      美方の母体に他地域の種をつけ、販売するという選択肢も一つだと思っています。