意外に多い和牛の白帯病。

こんにちは。
但馬牛繁殖農家のお肉屋さん、ときどき削蹄師の田中一馬です。

久しぶりに家の牛の削蹄をしたのですが、その時の娘がナタを砥いでくれました。
こんな時間を味わっちゃうと、いつか一緒に削蹄できたらいいなって、つい思っちゃいますね。。。

和牛に蹄病?

蹄病って、聞いたことある方もおられると思います。

蹄病とは蹄に現れる障害の事。
感染性のもの~角質形成に問題のあるものまで蹄病の原因は様々です。

たくさんの牛乳を生産し、コンクリートの上で暮らす「乳牛の世界」では蹄病はポピュラーかつ深刻な病気になっています。

しかし、和牛での蹄病ってあまり聞きません

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それは和牛は
①体が小さく体重が軽いという事。
②搾乳をしないため、牛があまり無理していないという事。
③蹄病を引き起こす細菌が蔓延していないという事。
④蹄の衝撃をやわらげるようなクッション性の高い環境下で飼育されていること。
などなど。
様々な環境要因があって、和牛での蹄病の発生は少ないと考えられています。

僕は和牛メインの削蹄師なので、蹄病に出会うことってあまりありません。
特に感染性の蹄病は今までほとんど見たことがなく、ほぼ全てが角質形成に問題のあるものばかり。

今回はそんな和牛で起こりやすい蹄病について、対策も含めて書いていきたいと思います!!

和牛の代表的な蹄病

和牛の蹄病で一番多いのが蹄葉炎です
(最近では久しぶりにエンドファイト中毒(フェスクフット)牛も見ました。)

これらは餌による代謝障害中毒症状で、削蹄で改善できることって実はあまりありません。

【蹄葉炎】
濃厚飼料の多給を行う肥育牛に多く、ロボット病などともよばれます。
胃の中が酸性に傾くルーメンアシドーシスが引き金となり、蹄真皮の出血や炎症を起こし、激しい痛みと過剰な角質形成からくる蹄の変形が特徴です。
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【フェスクフット】
植物体内で共生している真菌や細菌(エンドファイト)が生産する毒素が原因。
末端部の血行障害を引き起こし、重度の場合は蹄の鞘が抜けて足が壊死してしまう。
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10年前、僕もこのフェスクフットで牛を廃用にした経験があります。
(エンドファイト中毒について書いたブログは「こちら」)

エンドファイトで蹄に重篤な障害が出るケースは稀ですが、先日久しぶりに見かけたので啓蒙もかねて動画を載せておきますね。
この子は末端が壊死したため副蹄が落ち、蹄冠より上部の組織もゆとりが全くありません。

和牛ではこういった「餌から起こる蹄病」が最も多いのですが、餌の問題は非常にデリケート。
一概に「こうすれば良い」とは言えません。。。

しかし蹄葉炎の次に多い白帯病蹄底潰瘍といった蹄病は、環境の改善で予防することができます。

白帯病も蹄底潰瘍はどちらもメジャーな蹄病ですが、和牛の場合は白帯病の方が明らかに多い気がします。
和牛の白帯病の原因を見る前に、まずは白帯病って何なのか見てみましょう!!

白帯病とは?

牛の蹄は一つの組織ではありません。
蹄の表面を覆う蹄壁、底の蹄底、そして蹄壁と蹄底の接合部である白帯
そしてクッションとなる蹄球があります。
図13

削蹄後の蹄カスを放置しておくと良くわかるのですが、蹄壁は何日たっても変わらず硬いまま。
一方、蹄底角質と白帯は脆くなります。
特に白帯はボロボロと粉状に崩れてしまう。

これは蹄の角質の強健さを意味します。
蹄壁>蹄底>白帯

白帯病とはこの一番脆い白帯に傷や亀裂が入り、その隙間から細菌が入る外傷性の蹄病です。

白帯病について詳しく知りたい方は本を読んでくださいね。
(本タイトルをクリックすると、Amazonサイトに飛びます。)
牛のフットケアと削蹄』『牛の跛行マニュアル』『牛のフットケアガイド

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削蹄勉強会について書いたブログはこちら→「削蹄勉強会in山梨

和牛に多い白帯病の2つの原因

和牛で白帯病が起こる2大原因は異物の混入による傷と、横滑りによる亀裂です。

①異物混入による傷

パドック等にある小石が白帯に食い込み、その傷から感染して白帯病を引き起こす事があります。

教科書では体重のかかる後肢外蹄、もしくは前肢内蹄で白帯病は発生しやすいとなっています。
しかし、異物混入による白帯病はどの蹄でも関係ありません。

昨年11月、繁殖雌牛で右前肢を痛がる牛がいました。
削蹄の数か月前から足を着けない状況で、最初は足のけがを疑いましたが接地を嫌がるため蹄に問題があると判断。
鉈で右前肢外蹄を叩くと、極端に痛がります。
削蹄をしていくと蹄底潰瘍の好発部位にも白帯にも異変はなく(気が付かず)、テスターで挟むと外蹄の蹄先部を非常に痛がります。(蹄先???)
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思い切って蹄先部を全て削切したところ、2重蹄底でした。
蹄底と蹄球の境から蹄先まで全てどろどろに溶けており、重度の白帯病を確認しました。
図15

白帯の傷から細菌が入ると炎症が起こり、膿が発生します。
初期に患部を開放してしまえば治るのですが、白帯の傷が埋まってしまうと、逃げ場を失った膿が硬い蹄壁を突き破れず、白帯をどんどん溶かして侵食していきます。
最終的には柔らかい蹄冠から膿を排出しますが、この段階まで来ると足を着いて歩くことなどとてもできません。
図16

残っていたのはむきだしの真皮と蹄壁だけ。
蹄壁もグラグラで柱の役割を果たせるか微妙。
こ、こりゃ痛いわ。。。。

【原因】
牛のいた環境は繁殖牛20頭ほどのフリーバーンでした。
オガクズも深く敷いてあり、ここまで重度の白帯病を僕は予想すらしていませんでした。
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(写真はフリーバーンのイメージです。症例の出た牧場とは関係ありません。)

実は今回のケースはフリーバーンに隣接してパドック(土の運動場)が接地されていました。

湿ったオガクズの上で飼われている牛の蹄は、水分を吸って柔らかくなります。
更にこういった環境では牛の蹄底は剥げ落ちていきます。

非常に薄くなった蹄底はフリーバーン上では問題がなくても、小石の多いパドックに出ると異物混入を引き起こす可能性が高くなります。

和牛で右前肢外蹄に白帯病なんて普通はあり得ません。
考えられるとすれば異物混入くらいです。
この牧場では他にもパドックに出ると足を痛そうにする牛が多数いました。
こういったことからも「フリーバーン⇔パドック」の移動が、異物混入を引き起こした原因と考えられました。

【対策】
対策としては蹄の厚みを残すこと。(削蹄時に過削しない。踵をしっかり残すこと。)
更にこの農家さんには、①パドックに出さない。②フリーバーンの床を極力乾かす。という事も同時にお願いしました。

小石の多いパドックではそれに負けないだけの蹄が必要です。

削蹄による過削も同じようなケースを引き起こす可能性があります。
削蹄時に蹄底を薄くしない(蹄壁や蹄踵を必要以上に取らない)という事がとても大切なことだと思っています。

【その後の経過を見て。。。】
ちなみにこの時はブロックを持っていなかったため、グラグラする蹄壁を残し、白帯のとこだけナイフで開放して終了しました。

見た目はきれいな蹄ではありませんでしたが、3月に再度削蹄に来た時には走りまわるようになっていました!!
グラグラな蹄壁でも牛にとっては必要だったんだなと、蹄壁の大切さを実感したケースでした。
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患部を開放したことで病変部が乾燥し、接地できるようになりました。14040112_10205479913952007_3690439464307064278_n (720x960)

こんな蹄壁でも接地の助けになります。
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3か月の間に新しい角質も生えてきました。(残しておいた蹄壁は必要なくなったので取りました。)図14

削蹄は蹄をカットすることではなく、蹄を守ること。
改めて蹄の厚さの重要性を強く感じました。

パドックに出すことは僕は牛にとってとてもいいことだと思います。
ただその場合は、蹄に十分な厚みと強度があるかどうか確認することが大切です。

また、もし削蹄をする際には削蹄師にその旨を伝えてみてくださいね。

農家さんとの意思の疎通なしには牛は守れません。
言っていただくことで初めてわかることって、たくさんあるんです!!!

②横滑りによる亀裂

和牛における白帯病のもう一つのケースは横滑りによる白帯の亀裂です。

和牛繁殖のつなぎ牛舎の場合、金属のスコップや重機で除糞するため牛のいるコンクリートがつるつるに磨かれてしまっているケースをよく見ます。
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牛は前後の滑りには比較的対応できますが、横の力には弱く、白帯の剥離が起こりやすいのです。

乳牛のフリーストール牛舎で、コンクリートの溝が摩耗により無くなってきたときに白帯が多発し、コンクリートの溝切りやマットを敷いて滑ることを防ぐことで白帯病が激減したというデーターを昨年見せていただいたことがあります。
横滑りは白帯病の一番の原因です

和牛のつなぎ牛舎も同じ。
特に和牛つなぎ牛舎の場合、後ろにある尿溜めに尿を誘導したいがために傾斜のついた床になっていることがあります。
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ツルツルで、傾斜がついていて、横に並ぶ牛に押されることで、後肢外蹄の負担はハンパないものになります。
滑らないように後肢をふんばるため、負担の大きな後肢外蹄はどんどん発達し、蹄底潰瘍の発生も増えます。

このような状況で後肢外蹄の白帯の亀裂は100%。
20%の牛に蹄底潰瘍を確認した農場もありました。

余談ですが、このような牛舎で削蹄をしている最中に全く関係ない牛が隣の牛に追いやられ股を裂く事故がありました。
床がツルツルの牛舎は非常に牛の負担が大きく、蹄病だけでなく大きな事故にもつながる可能性があります。

【対策】
勾配をフラットにして箒ばきなどの滑り止めを作れればBESTですが、すでに牛が入っている牛舎にコンクリートを打ちなおすことは難しいです。

牛の下にオガクズを毎日敷いてあげるだけでも全然違います。

ツルツル牛舎は牛にとって生産性を落とすだけでなく、家畜としての寿命までを左右することがあります。

牛が安心して生活できる環境は結果的に蹄病予防に繋がります。

家の牛の蹄を見て現状を理解することは、牛を理解することと同じです
何が牛にとって幸せなのか、考える習慣はなくしたくないですね!!

削蹄師の不養生

そんなことを言いながら、自分の牛が後回しになっているのが我が家の現状。。。
は、恥ずかしーーーー!!!

これじゃあ何の説得力も無いよね。。。。

我が家の牛の削蹄も、ちゃんとしたいと思います!!!
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和牛では疎かになりがちな足のケア。
今一度見直してみてはいかがでしょうか。


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田中 一馬
1978年生まれ。兵庫県三田市出身。田中畜産代表。小さい頃から動物が大好きで北海道酪農学園大学へ入学。在学中に畜産の魅力に目覚め、大学院を休学して2年間畜産農家で住み込みの研修に入る。2002年に独立して田中畜産を設立。但馬牛の子牛生産をメインに、牛の蹄を切る削蹄師として全国の牛の蹄をサポートをしている。2008年に精肉部門を立ち上げ、自家産の但馬牛で放牧牛肉の生産と販売に挑戦中。