牛の餌について、善や悪といった様々な主義主張が溢れている。

牛の餌には数え切れないくらいの種類がある。
例えば目の前の野にはススキ、ヨモギ、クズ、クマザサ、野芝と言った野草からチモシー、オーチャード、レッドトップ、バミューダグラスといった牧草が生えている。
牛は低木の葉も食べるし、伐採すれば高い木の葉だって餌にする。
118この牛の餌について、善や悪といった様々な主義主張が溢れている。

僕が放牧牛肉を生産しているからか、「牛は草食動物だから穀物を食べさせるのは不自然(悪)」だという意見を非常によく目にする。
しかし、穀物も同じ植物。
植物の葉っぱや茎はよくて種や実はどうして不自然なのだろう?

例えば市販の牧草にはチモシーやオーツヘイなどの[穂がついている]栄養価の高い草や、ストローと呼ばれる[穂を収穫した後]の安価な草がある。
でも、「これは牧草だけど穂がついているから不自然だよ!」なんてことは誰も言わない。

ただ単に穀物給与が悪で草のみが素晴らしいと考えると、ストロー牧草と微量の麦を与えるのは麦が入っているのでアウト。
トウモロコシの実(濃厚飼料)とトウモロコシの茎(粗飼料)の組み合わせもアウト。
オーツヘイなど(穂に麦がついている草)は粗飼料のカテゴリーなのでOK。
デントコーンサイレージ(とうもろこしの実も茎も葉もすべてカットして発酵させた飼料)も粗飼料なのでOK。

飼料の線引きというのは微妙だ。

人間の利用出来ない繊維を人間の利用できる肉や乳にかえるのが牛のすごさだと僕は思う。
穀物否定論も同じく「穀物は人間が食べられるものだから牛にやるのはおかしい」という視点がよく入っている。

人間が食べられないものは草だけではない。
資源の有効利用だけで言えば肉骨粉だって使えるはずだ。

エコフィードという食品残さも資源の有効利用。
でも、エコフィードを残飯という人もあれば国内で生産された安全な餌という人もいる。

また、遺伝子組み換えだとか農薬の問題などから輸入飼料より国産飼料のほうが安全だと言う意見もある。
じゃあ国産の草なら最高なのかと言えば、そうとは言えない。

例えば堆肥を入れすぎると硝酸態窒素が多くなり食べた牛は死ぬ。
カビが入れば流産もする。
国産100%が安全なわけではない。
もちろん輸入牧草と比べ物にならないくらい品質のよい国産の飼料も多くある。

つまり、《国産・輸入》《粗飼料・濃厚飼料》なんていう餌の肩書きのみで、牛や牛肉の評価なんてできないのだ。

牛飼いの基本中の基本だが、牛のルーメン内微生物は飼料の急変などによる生存環境の変化で簡単に死滅してしまう。
そしてそれは牛に大きなダメージとなって跳ね返る。

コロコロ餌変えるくらいなら品質の安定した輸入乾草を与えるほうが牛にとっては良いのだ。

放牧は素晴らしい技術だと思う。
といってもワラビ中毒で牛を死なせたこともある。
環境に適応できず、みるみる痩せる牛もいる。
でもこれは放牧の良し悪しではなく、僕に放牧を利用する技術がないだけの問題。

これが良い。あれは悪い。これらはぜんぶ主観。
単なる線引きの問題で、そのラインは各々が勝手に言っているだけのもの。
提示された情報は基本的に発信者の意図が含まれるので、絶対的なものではないと言うこと。
もちろん僕の出す話もそうなのだ。

何が安心安全なのかな。

どうせ主観なら、その農家が「何をたいせつにしているのか」を見比べてみると良いと思う。

僕は牛飼いなので牛にとっていいことをしていきたい。
そしてその牛肉を食べた人の体によく、楽しい食卓を提供していきたい。

その上で牛にとっていいのは国産にこだわることなのか。
食べる人にとって良い牛肉とは?
一つ一つの餌と、牛を見て考えてるしかない。

そもそも牛にとっていいとはなにを指すのか?
人間どおしでも相手の事はわからないのに、牛のことなんか簡単に分かるもんではないよね。
そこに答えを出せるのは毎日牛を見続ける牛飼いなのだと思うし、そこが牛飼いの技術レベルの差なんだと思う。

この技術なしに思想だけで語るのは牛飼いじゃなくて良い。
牛飼いだからできること、伝えられることがあると思う。


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田中 一馬
1978年生まれ。兵庫県三田市出身。田中畜産代表。小さい頃から動物が大好きで北海道酪農学園大学へ入学。在学中に畜産の魅力に目覚め、大学院を休学して2年間畜産農家で住み込みの研修に入る。2002年に独立して田中畜産を設立。但馬牛の子牛生産をメインに、牛の蹄を切る削蹄師として全国の牛の蹄をサポートをしている。2008年に精肉部門を立ち上げ、自家産の但馬牛で放牧牛肉の生産と販売に挑戦中。