畜産の新規就農の相談を受けてきて、今僕が伝えたいと思ったこと(中編)

こんにちは。
但馬牛繁殖農家のお肉屋さん、田中畜産の田中一馬です。

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非農家出身の僕が牛飼いを始めて14年が経ちました。

畜産の新規参入はあまり事例がなく、
「自分の牧場を持ちたいんですが、何から始めたらいいでしょうか?」とか、
「どんな制度資金があるんでしょうか?」とか、
「田中さんはどうやって牛飼いをすることが出来たんですか??」とか、様々な初期段階での就農相談をよくいただきます。

はい、

どうすれば畜産の新規参入が可能かなんて、全くわかりません!!!!(ごめんなさい!!)

でもね、たくさんの方の相談を聞く中で、僕が共通して感じたことがありました。
それなら僕でも伝えられる。

中編である今回は、僕が就農するにあたって大切だと思ったポイントを書いていこうと思います。(前編はこちら)

①スタートは出来ることをとことんやること

僕は実家が農家ではなく、両親は警察官(母はすぐ辞めたけど。)という家に生まれました。
当然、牛との縁なんてありません。

どうすれば牛飼いになれるのかわからない僕は、大学卒業後は就農のステップ通り畜産農家さんの所へ研修に行くことにしました。

美方郡の森脇畜産で、2年間お世話になりました。

23歳の冬。美方郡の森脇畜産で2年間お世話になりました。

畜産農家になるにはどうしたらいいのか。
それ以前に、畜産農家はどんな生活をしているのかすらもわからなかった僕。

自分が経営をすることを想像すること自体が難しかった。

そんな僕がやったことは、「今できることをする」という事でした。

・出来ることをやる

たとえばね。
僕は毎日、腹筋1500回、背筋を1500回、腕立てふせを600回していました。

筋トレを始めてまだ2か月くらいの僕。このイタさがフレッシュでいいね。

筋トレを始めてまだ2か月くらいの僕。この痛さがフレッシュでいいよね。

「朝5時半には牛舎に来い!!」と言われたら5時20分には仕事を始める。

次の日は5時15分に、その次の日は5時10分に来て仕事をしました。

調子に乗ってどんどん早起きするようになり、4時ごろから仕事をしだした時、「やりすぎや!!」と怒られるくらい。。。

あほですね。

でもその当時の僕は、そんなことくらいしか思いつかなかったんです。

100%痛々しい空回り。
だけど、とにかく今出来ることをすべてやりつくそうと決めていました。

夜は毎日資金計画を練り、どんな時でもすべてメモを取り、ノートは20冊を超えました。

・目の前の出来ることを1年間やった結果

そして1年が経ち、実習も終わる時期になりました。

目の前のことを必死にやり、一つでも牛飼いを始めるためのヒントを見つけようとしましたが、

全く何も見つけることができなかったんです。

1年間考えた資金計画は無残なものでした。

23歳の時に1年考えて作った資金計画。ヤバ過ぎやろ!!!!

23歳の時に1年考えて作った資金計画。ヤヤヤヤヤバ過ぎやでーーー!!!!

土地の目途も、資金の目途も、牛の導入先も何もかも白紙。

「これでは一生結婚もできん。一人っきりで、365日休みなく働いて貧乏して。。。。」と、考えれば考えるほど苦しくなる。

しかし1年間考えた計画です。
何度見直しても何も変わりません。

(最初は黒字の計画書でしたが、見直せば見直すほど穴があることに気が付き、赤字計画書になっていきました。)

そして、さんざん悩んだ僕は「俺なんかじゃ入れる世界じゃない。。。」と、牛飼いを諦める選択肢を取りました。

②自分の立ち位置を知ろう

この時、僕の中では「いつか牛飼いができたらいいな~。」といった気持ちは完全に消えていました。

【いつかできたらいいな】

この考え自体は夢があって素敵だなって思います。

ただ、【いつか】って、
目の前のできることを見つけて動くことでしか、たどり着くことはできないと思っています。

行動することで初めて自分を知ることができ、進む方法も具体的になっていく。

・中期経営計画を立ててみよう。

就農相談を受ける中で思うのが、「いつかできたらいいな」から前に進めない方が非常に多いということ。

そんな時に僕がおすすめしたいのが、中期経営計画を作るという事です。

中々進めない方には、中期経営計画を書いていないケース(作っていても農業改良普及センター等の支援機関が作成したものである)が非常に多い事に気づきました。

それじゃ何もわからない。
人の書いた絵でもダメ。

新規参入者は新規就農者とは違います。ゼロから自分で組み立てなくてはいけません。

どういったふうにお金が流れて出ていくのか、何が必要で、どうありたいのか、全て自分で把握していないことには話になりません。

例えば親牛の餌代。
1日に与える草を6㎏としたとき、イタリアンライグラスなら35円/kg×6㎏で210円。
60円/kgの配合飼料を平均で2㎏とすると120円/日。
親牛の餌だけで330円/㎏かかり、365日だと12万円/頭。

子牛の餌代は、1か月齢の時はほぼ食べないけど、3か月齢の時点では配合は2.5㎏食べるとして70円×2.5kg×30日。その時の乾草が。。。4か月齢になれば。。。。5か月齢では。。。
授精料が、、、地代賃借料が、、、導入費が、、、オガクズが、、、etc

一つ一つ。
自分が必要だと思う項目を人に聞き、血の通った数字で資金計画を立てていく
(できれば年単位ではなく、月別で5年間)

こんなのエクセルで作ればすぐだし、なにより自分で作ることでイメージができる。

そしてそれを見てもらうことで、自分が見えていなかったものも見えてきます。

そして、そうやって作った計画書は、まず100%使えません。

だって、

経営計画なんて絵に描いた餅だもの。

そのとおりなんて絶対に行かない。

えええええええええええええーーーーーーーーー!!!!!!
せっかく書いたのにーーーーーーーー!!!!!

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・経営計画を立てる意味

でもね、作ることに意味があると僕は思うんです。
自分の事業のイメージができ、また、自分の立ち位置が明確になる。

何にもわかってないっていう立ち位置がわかる。

これは無駄ではありません。
むしろこれをしないことには何も進みません。

この計画作成の一番のメリットは、タダだという事です。
お金をかけずにできる準備です。

牛舎をたてる時も同じ。
更地に線を引いたりロープを張って実際の牛舎をイメージすると、図面ではイメージできなかった欠点も見えます。
これもお金がかからない準備。

お金がないからこそ、手間とお時間を惜しまず、お金がかからない準備をしましょう。

稚拙でもいいんです、やったらその分経験値は上がっているから。

自分の立ち位置を見える化をすることで、はじめて進む方向は見えてくるのだと思っています。

就農5年目で牛舎を新築することが出来ました。

最初からすべて揃えるなんて無理。僕は就農5年目で牛舎を新築することが出来ました。

③それでもやりたいか

自分の立ち位置が分かり、実際に就農に向けて準備をすればするほど【無理だ~!!】って思うと思います。

就農には何千万円ものお金がいるだけではありません。
新規で始めるという事はその土地に縁もゆかりもないという事。
土地を購入するハードルもありますし、購入出来てもその土地で畜産ができるかと言えばまた別です。

離農された空き牛舎に、地元の農家がそのまま入るのことも難しいのが現実です。

「やっと近所から牛がいなくなったのに、新しい人が入るなんてとんでもない!!!!」というケースはよく耳にします。

ただ、現実は現実。

大切なのは、それでもやりたいか?ってことです。

僕はここがすべての起点だって思っています。

研修中は

どうなるのか全く見通しのつかなかった研修時代

・今できることをやることで「それでもやりたい」という覚悟は育つ

僕は1年間腹筋背筋1500回、腕立て伏せ600回、毎朝親方が起きる前にあらかた仕事終わらせて、昼休みには走って牛舎に上がり削蹄の練習をさせてもらい、ひと月に1冊以上ノートがメモで埋まりました。

でも、僕のやったことは就農には何の意味もなかった。

そりゃそうです。
腹筋背筋1500回やって、起業できるとかおかしいもん。

畜産を新規で行う事は無理だ」と判断した僕は、実家に電話をしました。

当時両親と話すこともあまりなかったのですが、さすがに自分の進む道について伝えなきゃあかんやろと親に電話したわけです。

母が電話に出ました。

「ああ、おかん。僕な、1年間牛飼いに向けて動いてきたけど、どうやってもうまくいかんかった。色々応援してもらってきたけど、やっぱり諦めようと思う。」

そう伝えるつもりでした。

だけど、、、、、、「諦めようと思う」って最後まで言えなかった。

言おうとした瞬間に涙が止まらなくなり、嗚咽して言葉が出くなってしまった。

腹筋背筋なんて就農に何の意味もない。
それでも、稚拙であっても自分が考えられる範囲で向き合った結果、牛飼いという仕事は「出来たらいいな」から「何が何でもやりたい」仕事になっていたんです。

本気で向き合ったからこそ。

「10年赤字でもいいや。」
「結婚できなくたっていいや。」
「兼業でもなんでもいい。絶対この仕事をする。」

何が何でも牛飼いをするという気持ちになっていた。

結局その場で電話を切った僕は、もう1年研修を継続させていただくお願いをしました。
そして1年後、親方の牛舎を間借りするところから畜産経営をスタートさせることが出きたんです。

この牛舎で間借りさせていただくところからスタートしました

この牛舎を間借りさせていただくところから、僕の牛飼いはスタートしました!!

・万人に共通する新規参入の方法なんてない

「なんだよ!!肝心な資金調達や牛舎習得までの具体的な事例とかないのかよ!!」
って思う方も多いと思います。

僕はそんな事例ってあんまり意味がないって思っています。
だって時期も場所も自分の置かれた環境もみんな違うから。
立っている位置が違うから。

各々が自分のいる場所を把握し、その場所で覚悟をもって出来るまで試行錯誤しながら進む。
これは就農してからも全く同じ繰り返しです。

だから現実を知ること。
そして、「それでもやりたいか」が大切になると僕は思っています。

不思議なもんで、自分の腹が据わると同時にたくさんの方が応援してくれるようになりました。
一人の力ではとてもできない畜産経営を始めることが出来たのは、覚悟と周りの方の応援があったからだと思います。

畜産をするという事はその土地で骨をうずめるってことです。

就農しても資金繰り、地域との軋轢、家畜の事故と、思うようにいかないことが起きることは容易に想像ができます。

それでもやりたいか。

すべてはそこだと思っています。

自分の現状を知り、それでもやりたいか。

万人に通用する方法はありません。
出来るまでやるしか出来る方法はないと僕は思うのです。

次回、補足的な話をして【畜産の新規参入者を目指す方へ今伝えたいブログ】をまとめたいと思います。

(後編へ続く)


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田中 一馬
1978年生まれ。兵庫県三田市出身。田中畜産代表。小さい頃から動物が大好きで北海道酪農学園大学へ入学。在学中に畜産の魅力に目覚め、大学院を休学して2年間畜産農家で住み込みの研修に入る。2002年に独立して田中畜産を設立。但馬牛の子牛生産をメインに、牛の蹄を切る削蹄師として全国の牛の蹄をサポートをしている。2008年に精肉部門を立ち上げ、自家産の但馬牛で放牧牛肉の生産と販売に挑戦中。

コメント

  1. 飼原悠希 より:

    前、中と読ませてもらいました。
    私も新規で畜産と縁もない所から初めて7年となりそうな所ですが、読んでてほんとうに当時のことを思い出しました。

    そのなかでも、中編の(それでも、畜産をやりたいか!)ここに強く同じ思いを感じました。