「きぼう」という牛が見せてくれたもの(但馬家畜市場5月市)

先日5月の但馬家畜市場があり、子牛を2頭出荷してきました。
価格の伸びない5月市にしてはとても相場の良い子牛市でした。

市場の平均(日齢・体重・価格)は
去勢 148頭 260日齢 251kg 606,373円(前年同期比112,042円高)
雌 129頭 272日齢 233kg 530,437円(前年同期比90,980円高)

我が家からは『芳雪姫(♂)』と『きぼう(♀)』が出場しました。
d0099005_1595367
芳雪姫が230日齢258kgで68万円、きぼうが232日齢224kgで67万円という高価格で、去勢は地元の農家さんが雌は松阪の農家さんが買って下さいました。
d0099005_1593092

こんな事を書いて「どうだ、僕は凄い牛飼いだろう!」と言いたい訳ではないのです。

実は恥ずかしくてそんな事はとても言えない訳があります。
僕の身近な方はよくご存知でしょうが、前々回の3月市までずっとうちの牛はぼろぼろでした。
3月市では市場最低価格の牛まで出していましたし、ここ2~3年ずっと平均して最低ランクの牛ばかりでした。
それは何より僕自身に牛を見る目がない事が最大の原因だと分かっています。

今もうまく能力を出せずに僕が足を引っ張ってしまう牛がいます。
先日3ヶ月齢の子牛が死亡しました。
繁殖50頭くらいの規模でこんな事をしていてはいけないのですが、その子達を毎日見るたびに申し訳ない情けない気持ちになります。
なので現状に全然満足していません。

それでもこうやって全体の牛が変わり、それが価格として反映されてきて、少し前が向けるようになりました。

きぼうと言う名前は放牧牛パートナー制度に加入してくれている神奈川県のY君がつけてくれました。
耳標にもY君が名前を書いてくれました。
d0099005_1583230
名前の通り我が家に一筋のきぼうを見せてくれました。
Y君ありがとね。

見る方見る方が「牛が変わったな。」「今日の市では一番いい牛だ。」「これはお前の牛と違うんとちゃうか?」と言って下さいました。
それが何よりうれしかったです。

もちろん評価いただいた価格もとても嬉しかったのですが、
価格と言うものはお客さんがいて、相場があって、本来どうこう出来るものではありません。
しかし、かかる費用は全てコントロールできます。経費は自分の意志によって決められます。
価格に右往左往されずにしっかりと舵を切っていかなきゃ残るものもも残らないので、実は浮かれていません。

同じく出荷する子牛達も、求められるものに合わせて、かつ自分の理想とする牛を描いてそれに近づけていかなきゃいけません。

3年前、このままでは存続できないと、牛の飼い方、経費のかけ方、自分の考え方、人とのかかわり方。
少しづつ全て変えてきました。
結果、失敗ばかりです。

それでも粘る。模索する。
それしか出来ない。
でも、とにかくしぶとく生きていこうと思います。
決して希望に満ち満ちたりしないけど、心の奥の方にある希望らしきものだけは離さずにいれば、しぶとく生きられる。

変えた事は色々あるのですが、例えば飼い方で言えば人工哺乳(強化保育)をやめました。
全て自然哺乳で離乳時期も伸ばしました。

親牛の管理では1年前から餌をすべてかえました。
親の粗飼料はTMRという発酵まぜご飯がメイン。
地元の○○○○、米糠、醤油粕に加えビール粕にトウモロコシやらもろもろ。

配合飼料も単味を自家配合しています。
(子牛も単味で自家配合していましたが消化不良で大失敗し、配合、乾草ともに見直しました。
これはこれで強烈に良い勉強させていただきました。)

ひとつひとつの詳細な内容はいちいち書きませんが、あえてまとめれば牛に合わせて牛を見るという牛飼いとして当たり前の事でした。

単純に飼料成分や給与量ではなく、例えば親牛TMRならいかに満腹で落ち着いているか、糞の状態や牛が機嫌が良いか。
太り過ぎていないか、やせ過ぎていないか、蹄が伸び過ぎてないか、毛づやはどうか、種付けは。。。
配合内容を微調整。

子牛は風邪と下痢をいかにさせないか、消化器官に負担をかけないか。

いかにコストを下げるか。

下痢と風邪の対策なんて当たり前のことを、常識や固定観念や机上の理論に縛られず牛を見て対応していく。
そんなことを心がけています。

「基本的にお前は色々手を出しすぎなんや。やりきってるなら良いけど順番がちゃうわ」とずっと言われています。
言われながらも中々そうできないのが僕なのですが、こうやって言ってくれる方がいるから進める。

妻の存在も日に日に大きくなっています。

だから牛が変わってきたのかなと思います。

そしてこうやって自分なりに考えて牛を見るようになって、いかに牛が分かっていなかったのか、
今更ながら分かりました。

こうやって改善してこれたのは改善に取り組んだからなのは間違いないのですが、僕にとっての改善とは餌を変えるとかという小手先の技術なんかではありませんでした。

そこらへんんも時間を見つけて書いていければいいなあと思っています。

7月市は14頭出荷です。
数は多いですが1頭1頭丁寧に手入れして市場につれていければと思っています。


The following two tabs change content below.
田中 一馬
1978年生まれ。兵庫県三田市出身。田中畜産代表。小さい頃から動物が大好きで北海道酪農学園大学へ入学。在学中に畜産の魅力に目覚め、大学院を休学して2年間畜産農家で住み込みの研修に入る。2002年に独立して田中畜産を設立。但馬牛の子牛生産をメインに、牛の蹄を切る削蹄師として全国の牛の蹄をサポートをしている。2008年に精肉部門を立ち上げ、自家産の但馬牛で放牧牛肉の生産と販売に挑戦中。