GI(地理的表示保護制度)から見る、牛肉と但馬牛の歴史。

こんにちは。
但馬牛繁殖農家のお肉屋さん、田中畜産の田中一馬です。

平成27年から始まったGI認証(地理的表示保護制度)

先日3月3日には平成29年度の認証品目が発表されました。

国内最初の認定を受けた但馬牛・神戸ビーフに続き、今回は2年ぶりに牛肉部門での登録。
認定されたのは米沢牛、前沢牛、そして特産松阪牛の3品目です。

GI(地理的表示保護制度)ってなんなの?

GIとはEUでは25年前から導入している制度で、地理的表示の保護を目的とするものです。
うん、なんかピンと来ないですね。。。

地域で伝統的に作られ、地域名自体がブランドになっているものってたくさんありますよね。
産地名が商品についていると僕なんかはやっぱり安心してしまいます。
それは伝統や気候風土といった商品の背景を感じるからだと思うんです。

しかし実際は、地域名が商品となっているものには区別がつかないくらいのたくさんの物があります。
それに関する模倣品も多い。
そういったものからブランドを守り、差別化を図るための認証がGIです。

大きなポイントは国による認証だということ。
言い換えると、

GIとは国のお墨付きを受けた地域ブランドのことです。

農林水産省のHPにはこう書かれています

地域には長年培われた特別の生産方法や気候・風土・土壌などの生産地の特性により、高い品質と評価を獲得するに至った産品が多く存在しています。これら産品の名称(地理的表示)を知的財産として保護する制度が「地理的表示保護制度」です。

このGI認定の一番の利点は、海外市場におけるブランドの保護です。

例えば海外で神戸ビーフが販売されていた場合、GIマークが付いていることで本物であるとの根拠になります。
また、今まで個人や生産者団体で対応するしかなかった海外での模倣品には、政府自らが現地での訴訟などの取り締まりをしてくれるようにもなる
現実的には野放しだった海外の市場において、この点は非常に大きいと僕は思っています。

神戸ビーフの枝肉にもGI表記がされています。

(※GIについて詳しく知りたい方は「農林水産省のページ」をご参照くださいね。)

一方でGIには「日本にはこんなすごい作物があるんだよ~~!!」と、環境・歴史・人などそのブランドの背景を国内に届ける役割があると僕は思っています。

なぜ但馬牛がGIに認定されたのか?

日本では平成27年からスタートしたGI制度。
最初に登録された7品目のうち2つに、但馬牛(たじまぎゅう)と神戸ビーフといった牛肉が入りました。

日本三大和牛と言われる神戸ビーフ、松阪牛、近江牛。
米沢牛や前沢牛などもとても有名ですよね!!

その中で、

「但馬牛(タジマギュウ)ってなに??」

「どうして三大和牛を差し置いて、一番最初に国から認定されたの?」

って思われる方もおられると思います。

その理由が、神戸ビーフと但馬牛(たじまぎゅう)の素となる但馬牛(たじまうし)の存在だと僕は思っています。

(※但馬牛についての詳しい解説はこちらをご参照ください!!「但馬牛ってすごいんです。」)

タジマウシ=タジマギュウ(神戸ビーフ)

兵庫県には1200年以上前から改良されてきた但馬牛(たじまうし)という品種の牛がいます。

名牛、田尻号

この兵庫県で生まれた但馬牛(たじまうし・牛の品種)を、兵庫県内で肥育してお肉にすると但馬牛(タジマギュウ・商品名)となります。
そして、その但馬牛(タジマギュウ)の中でも肉質が一定ランク以上の物を神戸ビーフと呼ぶことができるんです。

つまり、GI認定された神戸ビーフも但馬牛(タジマギュウ)も、どちらも同じ但馬牛(たじまうし)。

神戸肉流通推進協議会のHPより

タジマウシ=タジマギュウ(神戸ビーフ)
タジマウシ⇒GI認証

そう考えるのは決して飛躍した視点ではないと思っています。

もちろん世界的に最も認知度の高い神戸ビーフだからこそ、日本で初めてのGI認証となったのだと思います。

しかし、ハイグレードの神戸ビーフだけではなく但馬牛(タジマギュウ)も含めての認定という事は、但馬牛(たじまうし)のもつ歴史そのものが評価されたって感じちゃうんですよね。

神戸ビーフと但馬牛の枝肉共励会。格付けは関係なく全ての枝肉にGIのシールが貼られています。

但馬牛と神戸ビーフの公示されたページを一部抜粋しましたので、ご興味のある方は読んでみてくださいね。(以下農林水産省のページより抜粋)

神戸ビーフ・但馬牛
「神戸ビーフ」「神戸肉」「神戸牛」「KOBE BEEF」「但馬牛」「但馬ビーフ」の素牛である但馬牛(たじまうし)は、兵庫県の県有種雄牛のみを歴代に亘り交配した牛である。
「神戸ビーフ」「神戸肉」「神戸牛」「KOBE BEEF」「但馬牛」「但馬ビーフ」の脂質の良さを決定する成分であるモノ不飽和脂肪酸割合が高いといった特性は、素牛である但馬牛(たじまうし)によるところが大きい。
牛肉の良し悪しはその素牛できまると言われているが、「但馬牛」「但馬ビーフ」の素牛である但馬牛(たじまうし)は、約1,200年も昔から兵庫県北部の但馬地方の山あいで、農耕用の役牛として、澄みきった空気、清らかな渓流、豊富な山野草など恵まれた自然環境にはぐくまれてきたが、明治期においてその遺伝子が肉牛としての良質な血統であることが認識されるようになり、それ以降長い歳月をかけ、多くの人々の努力により、改良に改良を重ねた結果、良質な肉質を有する肉用牛としてつくり出されたものである。
その血統からは、性質温順で、身体つきも気立てもよい牛が代々生まれ、しだいに但馬地方のみならず兵庫県内各地で飼育されるようになった。
但馬牛には強い遺伝力があり、全国の和牛品種改良の「もと牛」として使われている。なかでもとくにすぐれた資質が固定している系統を「つる」と呼び、その系統から生まれた牛を「つる牛」と呼んでいる。
但馬牛には「あつたづる」「ふきづる」「よしづる」の三大つる牛が現存しており、優れた特長を代々受け継ぐ牛として君臨している。
「もと牛」として重宝され、現在国内各地の銘柄牛に受け継がれるようになった但馬牛の遺伝子。そんな中、兵庫県産但馬牛は今もなお他府県産の和牛との交配を避け、完全な純血を守り続けている。
このような但馬牛(たじまうし)の肉質を有する牛肉の中で、公益財団法人日本食肉格付協会が実施する枝肉格付において、A・B2等級以上に格付された枝肉にのみ「但馬牛」「但馬ビーフ」の称号が与えられる。

このタジマウシという遺伝子、実は全国のブランド牛の立ち上げにも大きく関係しているんです。

特産松阪牛と但馬牛

兵庫県内で生産される但馬牛。

今年認定された3つの牛肉のうち、特産松阪牛も但馬牛とは非常に深い関係にあります。

松阪牛ではなく「特産」松阪牛。

国内では最も有名な松阪牛ですが、同じ松阪で飼われていても松阪牛と特産松阪牛に分かれるんです。
その違いは霜降りなど肉のグレードではなく、素牛となる牛の種類。

全国どこで生まれた子牛でも松阪牛の資格は持てますが、特産を名乗れるのは兵庫県産の但馬牛だけと決められています。

但馬家畜市場にて。この子も特産松阪牛となるために三重県に行きました。

江戸時代、兵庫県北部の養父の牛市で飼われた但馬牛の雌子牛は紀州で1~2年農耕用に利用されながら調教を受け「役牛」として育てられていました。
この調教された2~3歳の但馬牛は松阪に運ばれ「新牛(あらうし)」として重宝されます。
やがて明治になり牛肉の需要が増えると、農耕用だった新牛の中から大型の牛が選ばれて肥育されるようになります。
これが松阪牛のルーツです。

現在は肉量が取れず、長期間飼育が必要な但馬牛は利益率が悪いとのことでほとんど飼育されていません。
しかし、まだ一部の農家さんは昔ながらの但馬牛を使った松阪牛(特産松阪牛)を生産されています。

こちらが特産松阪牛の公示ページの抜粋です。

特産松阪牛

特産松阪牛は、兵庫県で生まれた黒毛和種の未経産雌牛を12ヶ月齢に達するまでに、平成16年11月1日当時の22市町村の区域内(以下、「生産地」という。)に導入し、生産地のみで900日以上肥育し、かつ、生産地における肥育期間が最長かつ最終である、最も伝統的な最たる松阪牛を称するものである。

特産松阪牛は、古くから兵庫県で生まれた未経産の雌牛だけを、生産地で他産地よりも長い期間肥育し、特産松阪牛の枝重は雌牛の全国平均と比較して約70kgも少ないが、その兵庫県産雌牛が故の増体面の不利性を補って余りあるほどに肉質が探求されてきた。長い歴史の中で、特産松阪牛の特徴であるキメ細かなサシと甘く上品な香り、人肌で溶ける脂質に由来する最高の食味が、今日の評価に至っている。

これらのことは、特産松阪牛が900日以上もの長期に渡り生産者の手で1頭1頭手塩にかけ肥育していると言われる所以であり、昔から特産松阪牛は柔らかく脂がとろけるような舌触りと形容されてきたことを説明する根拠となっている。

特産松阪牛はそのキメ細かなサシと食味は抜群であるものの、増体面の効率に劣る兵庫県産素牛を長期肥育するという不利性は否めないが、長期肥育に耐えられる剛健な牛を厳選し、黎明期より確立した長期肥育の技術を末永く伝承していくため、優良素牛を広く全国から導入する今日にあっても、産地として志向する最たるものとして、兵庫県産の雌子牛を導入し長期肥育する特産松阪牛の飼養の継続が強く奨励されてきた。

多くの他産地では、肉質等級等によってブランド牛として差別化しているのに対し、生産地では、多くの生産者がこの特産松阪牛を飼い続けることで特産松阪牛たる技術を伝え、特産松阪牛だけが出場できる松阪牛共進会での栄誉を目指し切磋琢磨し続けることでさらにその技術を高め、品質維持に繋げている。

これらの非効率とも言える独自の技術伝承方法が、高いブランド価値の裏付けとして評価されている。

生産地では、長年、雌の子牛に特化した長期肥育の技法により育てた特産松阪牛を、消費者に安心な食材として提供するため、松阪牛関係団体で構築した農家情報をはじめ、牛の血統、飼養管理情報、と畜情報、生まれてからの日数等を整備し、消費者がより多くの情報を得ることができることとなっている。

平成26年度の松阪牛の生産状況は、出荷頭数6,951頭、現在の登録数は、11,080頭となっており、これらすべての個体情報を徹底管理している。

中でも特産松阪牛の出荷は、239頭と少ないが、松阪牛の生産者の中でも1頭でも兵庫県産の雌子牛を導入し特産松阪牛に取組む生産者を「特産松阪牛推進農家」として認定し、3年間に導入が確認できなければ認定を取り消すなど、特産松阪牛の長期肥育の伝統を継承することで、その技術が大いに活かされ、特産松阪牛の出荷頭数から格付割合を見るとAB5等級、AB4等級が約83%と高い格付等級の特産松阪牛が作り出される。

今も伝統を継承し続けることで、現在でも、数ある和牛ブランドの中でトップブランドの評価を得ている。

今回著名な「松阪牛」ではなく「特産松阪牛」が認定されたことで、改めて但馬牛の持つ歴史の深さを感じました。

ブランドの背景とは関わる人の思い。

地域で伝統的に作られてきたものを国が認証するGI(地理的表示保護制度)。

今回GIという切り口で牛肉と但馬牛の関わりを見てきましたが、GI認証されていなくても全ての商品には様々な背景があります。

僕自身も放牧敬産牛肉として自分でお肉を販売しています。
そこにはもちろん僕の思いが詰まっている。

国内でのブランド牛は200~300はあると言われています。
前向きで建設的な思いばかりでなく、否定的な意見や各々の思惑だってもちろんある。
それらすべてをひっくるめて、そこに関わる人たちの思い一つ一つがブランドなんだと思う。

その上で、この歴史ある但馬牛は個人の思いで無くしてはいけないものだって思うんです。

日本の財産である和牛遺伝子。
そしてその中で僕らの飼育している但馬牛という純血の遺伝子。

受け継いできたものを次に残すために、何を変え、何を守るのか。
頭数や遺伝的な面からも一つの岐路に来ている気がしています。

そんなことを今回のGI認証から感じるのでした。


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田中 一馬
1978年生まれ。兵庫県三田市出身。田中畜産代表。小さい頃から動物が大好きで北海道酪農学園大学へ入学。在学中に畜産の魅力に目覚め、大学院を休学して2年間畜産農家で住み込みの研修に入る。2002年に独立して田中畜産を設立。但馬牛の子牛生産をメインに、牛の蹄を切る削蹄師として全国の牛の蹄をサポートをしている。2008年に精肉部門を立ち上げ、自家産の但馬牛で放牧牛肉の生産と販売に挑戦中。