大きい子牛よりも強い子牛。子牛の能力は母牛の管理から。

こんにちは。
但馬牛繁殖農家のお肉屋さん、田中畜産の田中一馬です。

一昨日2頭の子牛が生まれました。

このツイートをした直後、

「一馬さん?もう1頭の陰部から出血が。。。」

と、妻が走ってきました。

慌てて手を入れると逆子です。

通常はうつぶせで出てきますが、この子は仰向け。
仰向けの場合子牛は出てこれません。

放置しておくと胎盤がはがれ、子牛は呼吸が出来なくなる。

すぐに体位を直し、引っ張り出しました。

その後の子牛。Facebookのライブ投稿にて

発見のタイミングが良かったこともあって、今回も事故なくお産に立ち会うことができました。
今年の事故ゼロも更新中です。

ホッしたと気持ちの一方で、僕は「あ、こいつ強いな。。。」という思いで子牛を見ていました。(ライブ動画見てみてね。)

逆子で生まれてきたとかではなく、ただ【強い子が生まれてきた感じ。

これって本当に大切なことだって思うんです。

強い子牛を産ませるために

牛飼いを始めて15年、ずっと大きな子牛を出すことを目標にしてきた気がします。

いかに大きく産ませて、いかに大きく出荷するか。

この考えが間違っているとは思いません。
しかし、全然足りていなかったなって今は思う。

子牛の成長は減点方式

僕は5年ほど前まで人口哺乳で子牛を育てていました。

ミルクをたくさん飲ませる「強化哺乳」という方法は、生後3か月までの子牛の発育を著しく良くします。
しかし、8か月で市場に出す頃にはどれも普通の牛。
そんなことがよくありました。

たくさんのミルクを飲ます人口哺乳は自然哺乳に比べ離乳時の負担が大きく、僕の技術では餌の移行が上手くいかなかった。

移行が上手くいかない子牛は下痢や風邪をひき、明らかに発育が停滞します。
小さく消化器官の弱い但馬牛には強化哺乳自体も負担だったのだと思います。

これ、哺乳が悪いという話ではありません。
僕が下手なだけ。

言いたいのは「どれだけ哺乳で貯金をしていても、いったんマイナスに転じると早い」ということです。

いかにプラスするかではなく、いかにマイナスにしないか。

そんなことをこの3年で学びました。

そして、子牛の状態をマイナスにしないために最も大切なことは、初乳やワクチンのもっと前。
強い子牛として生まれてくること」だと感じています。

強い子牛は母牛から

おなかの中にいる子牛は目では見えません。
だからつい、生まれてからが勝負って思ってしまいます。

けれど大切なのは妊娠するところからなんですよね。

・人口哺乳ひとつにしてもミルクを規定量飲める牛と飲めない牛がいます。
・下痢をしてすぐに衰弱する牛とすぐに復活する牛がいます。
・生まれてすぐ立ち上がる牛と、時間のかかる牛がいます。

生まれた瞬間から子牛には差があります。

この差は何なんだろうって考えると、最終的には母牛の胎内に行きつくと僕は思うんです。

授精の瞬間から子牛生産はスタートです

妊娠時期の飼養管理と言えば、胎児が大きくなる妊娠末期2か月前からの増し飼いが昔から言われている常識です。
しかし、イリノイ大学のジェームス・K・ドラックレィ博士によると妊娠初期の1/3も非常に重要であることが分かってきています。

妊娠初期1/3の母牛の栄養や環境から受ける刺激が、飼料効率や低体温症への強さなど胎児の代謝機能に大きく影響し、妊娠後期1/3は産子の発育率や体組成に影響を与える。

簡単に言えば、胎内での子牛の能力のスイッチは入るんだよって話。

これは胎児プログラミングと言って人間ではかなり解明されている分野で、牛ではこれからの分野。
でも、この考え方が凄くしっくりくる。

すでに牛でも様々なことが分かってきています。

例えば
・親牛の暑熱ストレスはその後生まれる産子のIgGの吸収率を下げ、子牛の死亡率を上げる原因になるとか
泌乳期ピークで受胎して生まれた子牛より、泌乳後期に受胎して生まれた子牛の方が初産時の乳量が多いとか

胎内での環境が、生まれてからの数年後の牛の能力までを決めているって凄いですよね。

親牛の管理を見直してみよう

ここ数年、この美方郡管内の子牛の死亡事故が激増しています。
これは美方郡閉鎖育種という遺伝的な牛の弱さも大きいと思っています。

でも、それだけじゃないよなとも思う。

僕自身も思うところがあり、昨年12月から親牛の餌をすべて変更しました。
子牛の能力はやっぱり親牛の管理だと思うから。

結果が見えてくるのは秋ごろかな。

大きな変化としては親牛の立ち姿が変わった。
削蹄しているしていない関係なく、立ち方が明らかに力強くなった。
それだけでも親の状態が良くなっている実感があるし、今まで親牛にそこまで目を向けていなかったなというのがよく分かった。

15年経っても牛のことなんて何もわかっていないなって思います。
でも、知りたいって気持ちはずっと変わらない。

だから牛飼いは面白いと思うんです。

【大きい子牛よりも強い子牛。子牛の能力は母牛の管理から。】

子牛相場のいい今だから、親牛の環境改善にしっかりと力を入れていこうと思っています。


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田中 一馬
1978年生まれ。兵庫県三田市出身。田中畜産代表。小さい頃から動物が大好きで北海道酪農学園大学へ入学。在学中に畜産の魅力に目覚め、大学院を休学して2年間畜産農家で住み込みの研修に入る。2002年に独立して田中畜産を設立。但馬牛の子牛生産をメインに、牛の蹄を切る削蹄師として全国の牛の蹄をサポートをしている。2008年に精肉部門を立ち上げ、自家産の但馬牛で放牧牛肉の生産と販売に挑戦中。