エンドファイト中毒って知ってますか?

こんにちは。
但馬牛繁殖農家のお肉屋さん、時々削蹄師の田中一馬です。

毎年春になると、近隣農家さんの削蹄まわりがスタートします。

3年前の話です。。。
削蹄先の4軒の農家さんのうち、2軒の農家さんでエンドファイト中毒の疑いのある牛に出会いました。

2軒の牧場には

・同じロットのペレニアスライグラスを使用していた。
・飼養頭数の1/3ちかくの牛の歩行がふらついていた。

と言った共通点がありました。

途中でこけて起き上がれない牛もいましたし、それが原因で親牛の股を裂いて廃用にしてしまったと聞きました。

自分の牛ではありませんが、残念な気持ちでいっぱいでした。。。

同時に、エンドファイト中毒についてあまり知られていない事に強い危惧を感じました。

エンドファイトとは

エンドファイトとは植物体内で共生している真菌や細菌の総称です。

植物がエンドファイトに感染することにより、植物の天敵(病害虫)に対して摂食障害を起こさせたり産卵障害を起させることができます。

牧草の種を取る事を目的とする場合、エンドファイトは有効な手段です。

問題はエンドファイトのもう一方の側面。
エンドファイトは病害虫だけでなく、それを食べる動物にも有害な物質を産生するという点です。

種を取った後の茎(ストロー)は、日本に大量に輸出され安価な粗飼料として利用されています。(以前は焼却処分していたが法律で焼却処分が禁止されたため)
このこと自体に問題はないのですが、使い方に注意しないとエンドファイト中毒症によって牛の事故が起きてしまいます。

牛におけるエンドファイト中毒症

牛に関するエンドファイト中毒は簡単に分けると2種類です。
トールフェスクによる中毒とライグラスによる中毒。(どちらも牧草の品種の名前です)
トールフェスクによる中毒はフェスクフットと呼ばれます。
菌が生成するエルゴバリンという物質が、末端部の血行障害を引き起こします。
重度のものは蹄が抜け、足が壊疽します。

一方、ライグラスではロリトレムという物質が原因で歩行異常や神経症状が出ます。

フェスクフットで廃用にした牛の蹄

発見のポイントは嗜好性です。

エルゴバリンやロリトレムの数値の高い草は嗜好性が著しく落ちます。

繁殖農家なら感覚で分かると思いますが、親牛が食わない草なんてよっぽど何かがおかしいんですよ。
ここで辛抱強く食べさせているとライグラスの場合はすぐに神経症状を起こします。
具体的には起き上がる動作がいつもよりゆっくりであったり、立ち上がった際に後脚に力がないと言った感じです。
そして、その感覚を無視してそのまま飼っていくと起立不能になります。
それまでの過程でも、後脚に力が入らないため滑って股裂きをする恐れがあります。

対策としてはトールフェスク1本と言った餌のやり方ではなく、その他2種類以上の草を与えてリスクを分散することしかありません。

実はこのロットのライグラス、当時(3年前)僕も入れていました。
でも、明らかに食いがおかしいこと、1頭起き上がるのにいつもより時間がかかる牛がいたことからロリトレムの高いライグラスだと判断し、「この乾草はエンドファイトが出るからすぐに持って帰ってください」と全て返品しました。

餌を変えた後、起き上がるのが遅かった牛もいつもどおりになりました。

今回の農家さんの場合、エンドファイト中毒についての知識を持ち合わせていなかったことに加え、返品ということに遠慮してしまっている雰囲気を感じました。
餌屋さんには嫌がられるかもしれませんが、明らかに親牛が食べない草は返品すべきだと思っています。
無理をして使っても誰も幸せになりません。

ちなみに我が家は親牛にカナダ産チモシーのストローを使っています。

エンドファイト中毒自体、あまりポピュラーではありません。
但馬では9年ほど前にフェスクで大発生し、多頭農家の間では話題になりました。
我が家も典型的なフェスクフットで、蹄のさやは完全に抜け、アキレス腱からの傷が裂けて足はブラブラ、傷口からは膿が出るなど4頭の牛を廃用にしました。。。

当時の事を知っている農家は輸入乾草のリスクといった視点を持っています。
しかし、削蹄先で感じたことは「思った以上にそのリスクは知られていないんだな」ということでした。

リスクを知り、牛を見ること

僕自身、この時の思いがもとで放牧牛肉を始めたという経緯がありますし、こういったことを書くと「輸入乾草は危険だ」と受け取られがちです。

でもね、何でもそうですが、物事ってそんな単純なものではないです。
自分で草を作っても、堆肥を入れ過ぎると硝酸態窒素が多く含まれる乾草になり、ひどい場合は食べた牛は死にます。
放牧していたって環境が悪ければワラビ中毒で全身の臓器から点状出血が起き、死亡します。

輸入だから危険とか国産だから安全とか言う話ではなく、どんなものにもリスクはあり、どんな方法や手法にもそれを行う背景があるという事です。

大切なのはリスクを知るという事、そして牛を見るという事に尽きると思っています。
牛の変化に気付くことが、すべてのリスクに対応する唯一の方法なんだと思うんです。

我が家の牛がここまでの末期症状になったのは、エンドファイトが原因ではなく、観察不足が一番の原因なのだと今では理解しています。

このブログを通して、こういった事故が1頭でも減るよう心から願っています。

エンドファイトについて詳しく知りたい方はこの本がオススメです!!
必要以上に不安になることなく、正しい知識で対応していきましょうね~。


The following two tabs change content below.
田中 一馬
1978年生まれ。兵庫県三田市出身。田中畜産代表。小さい頃から動物が大好きで北海道酪農学園大学へ入学。在学中に畜産の魅力に目覚め、大学院を休学して2年間畜産農家で住み込みの研修に入る。2002年に独立して田中畜産を設立。但馬牛の子牛生産をメインに、牛の蹄を切る削蹄師として全国の牛の蹄をサポートをしている。2008年に精肉部門を立ち上げ、自家産の但馬牛で放牧牛肉の生産と販売に挑戦中。