削蹄の効果

牛は偶蹄類に分類され、その蹄は2つに分かれています。
細かい事言えば後ろに副蹄が2つついているので4つなんですが、どちらにせよ偶数なので偶蹄類。

この主蹄は人間で言えば中指と薬指にあたります。
なので牛は何百キロという体重を指で支えているということになります。
その蹄は環境によって千差万別に伸びます。
当然ですが伸びると体重のバランスが悪くなります。
そのために削蹄をし、牛の体重を均一に分散させてあげる必要があるのです。

そもそも何でわざわざ「指」で立っているんだ!!と思うのですが、ベタ足だと瞬発力が出ないんですよね。
つま先と指でかまえるクラウチングスタートを、オリンピックの100m競争などで見た事があると思います。
同じ原理で、外敵から身を守るために、いかに早くトップスピードに持っていけるか、それを追求した結果が「蹄」だったのでは。と個人的に思っています。

「削蹄の効果」というタイトルですが、正直中々すぐに目に見えるものではありません。
逆に、削蹄をしない事の弊害の方が分かりやすい。
今回は簡単に写真を使ってお伝えできればと思います。

削蹄と言うと「蹄を短くする」というイメージを未だに持たれている農家さんが多いです。
蹄は前と下に伸びて行きます。
つなぎ牛舎などの牛が歩かない環境下では先端は削れず、蹄の先がどんどん伸びて行きます。
コンクリートなどの蹄底が削れる環境下では蹄の裏は摩耗します。
例えばつなぎ牛舎で床にゴムマットを敷くと、牛にとっての快適性が上がりますが、蹄の先も裏も摩耗しないので舟形(バナナ型)に蹄はグングン伸びて行きます。

そんな色んな環境下で、乳牛であったり、子牛であったり、雄牛であったり、肥育牛であったり、肥育でも出荷半年前の牛であったり、とにかく色んなステージや条件でそれぞれの牛に合わせた削蹄があります。

そんな中で結構に目にするのは、「削蹄師に頼むとお金かかるし、伸びた先端だけ切って短くした」というパターンです。
一見上から見れば、長かった蹄が「短く」見えます。
しかしこれだけだと、牛にとってすごく負担が大きいんです。
先端だけとるなら切らない方がまだ良いくらい。

削蹄は「蹄を短くすること」ではなくって、「牛の負担を減らすこと」。
・・・とか言うと「知ったかぶんな!!」と兄弟子のお歴々に怒られそうですが、まあ、そう思っています。

では、実際に見てみましょう。
こちらはつなぎ牛舎での繁殖牛の前脚です。
伸びていますが、蹄の付け根に負担がかかっているのがわかります。
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これを鉈でたたき落とし、
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裏を鎌ですいていく(負面を作っていく)と
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こうなります。
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適切な負面を作る事で、体重が蹄に真っ直ぐ乗っています。
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こちらは後脚。
蹄の負面ばかり摩耗して、先端が伸びています。
体重も蹄に真っ直ぐに乗っておらず、副蹄の下あたりが伸びて牛の負担になっています。
こういう牛は結構普通にいます。
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削蹄後
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先端を短くし、蹄角度を付ける事で体重が蹄に乗りました。
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この蹄角度は乳牛のフリーバーンでは52度~54度、つなぎ牛舎では45度など、一定の指標があります。
ただ、これはあくまで指標で、削蹄中はそんなこと考えて切っていません。

今まで親方から兄弟子へと積み重なってきた牛と蹄の形が自分の中に感覚としてあって、「この牛はこんな感じの蹄」と、牛を見て頭で描いた形に近づけて行く感じです。
結果的に肥育牛は安定性を重視するので繁殖牛に比べ蹄角度は浅くなったりしていますが、あくまでそれは牛を見て蹄を切った結果。
でも、言うは易くで、その「牛を見る」という事が全然足りてないなと、いつも現場で思います。言われます。
なのでもっともっと牛を見て、牛に合わせた削蹄ができるようになりたいです。
リハビリも順調で、9月には現場に復帰できそうです。
がんばらなくては。。。

おまけ。
削蹄途中であえて蹄角度をきつくとるために負面を小さくして、蹄を立ててみました。
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これはさすがにやり過ぎ、非常に不安定です。

おまけ2。
生まれて1週間の子牛の蹄。
角度は55度くらいでした。
子牛は軽いからこれでいいんでしょうね。
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削蹄の効果、ちょっとは伝わったかな。。。。


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田中 一馬
1978年生まれ。兵庫県三田市出身。田中畜産代表。小さい頃から動物が大好きで北海道酪農学園大学へ入学。在学中に畜産の魅力に目覚め、大学院を休学して2年間畜産農家で住み込みの研修に入る。2002年に独立して田中畜産を設立。但馬牛の子牛生産をメインに、牛の蹄を切る削蹄師として全国の牛の蹄をサポートをしている。2008年に精肉部門を立ち上げ、自家産の但馬牛で放牧牛肉の生産と販売に挑戦中。